どうしても投資したいなら国債を
「銀行に預金を入れておいても、たいした利子が付かないから投資したい」と考える人も少なくないようだ。
たしかに預金にはさほど利子は付かないが、自分のお金の何割かを手数料として持って行かれることもない。
投資も保険と同じで、これをやるということは、手数料によって金融機関の社員を食わせてやるということなのだ。
だから私は、基本的に投資もやらない。
ただ粛々と、自分のお金は自分で貯めておく。リスクはなく、お金をどう使っていくかの計画もはるかに立てやすい。私のお金で、まったく関係ない会社の社員を養うような慈善事業をやるつもりはない。
老後に備えたいなら、貯蓄が一番だ。
どうしても投資をやりたいという人には、国債をおすすめする。
まず、売り買いにかかる手数料がほとんどない。金融機関から手数料を収奪されることもない。他にも、国民年金基金などの個人年金なら税制上の恩典があるし無難なので、変額保険や投資信託をやるよりもずっとおすすめだ。
銀行が積極的に国債の広告をしないワケ
ちなみに、国債は銀行で買える。知らない人も多いだろう。
なぜなら、銀行は積極的には国債の広告をしないからだ。
個人向け国債は毎月募集がかかり、翌月発行されるものを購入できる。しかし銀行は、募集がかかったと思ったらすぐに「いっぱいになりました」と締め切ってしまうのだ。
これには理由がある。国債の問題ではなく、銀行側の事情があるのだ。
それは、国債が利回りの高い商品だ、ということである。銀行の預金につく利子より高いから、預金が見劣りしてしまう。だから銀行は、国債を積極的に売らない。
そして、銀行が国債を買っているのである。
さらにいえば、実は国債の利回りが預金金利より高いなど、他国ではありえないことなのだ。どこの国もたいていは、国債の金利が一番低く、銀行預金の金利がそれより少しだけ高い。両者が逆転している日本は、世界を見ても異例である。
この逆転している状況を、銀行は逆手に取っているのだ。
銀行は高い利回りの国債を買う一方で、国債より金利の低い預金を受け入れ、その利ざやで儲けているのだ。こんなやり方がまかり通っているのは、日本くらいのものである。
一般の人に国債をすすめたら、銀行は自分の利益が目減りしてしまう。銀行が国債を積極的に売らない背景には、こうした理由もあるわけだ。
はっきり言って、ずるいのである。
私は事実を言っているだけだが、まだ役人をやっている頃にこれと同じ話をしたら、大騒ぎになった。今でもこの内容を発言すると、あちらこちらから抗議やら恫喝やらが来る。
誰が見ても明らかな事実を言っているだけなのだが、実に不思議なものである。
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。数量政策学者。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究学科教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、内閣府参事官、内閣参事官等などを歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年に退官。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。