※本稿は、髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
円安だからといって憂慮する必要はない
2022年、財務省、金融庁、日銀の幹部が「3者会合」と銘打って度々集まり、「急速な円安の進行を憂慮している」と声明を発表した。
ベースには「円安にしろ円高にしろ、急速に動くのは良くない」という価値観がある。
しかし私から見ると、実際の動向はさほど急速ではなかった。そして、円安だからといって憂慮する必要はまったくない。
結局彼らは「悪い円安」というイメージ作りのキャンペーンをしているに過ぎなかった。
こう断言できるのは、財務省、金融庁、日銀、そしてマスコミが絶対に口にしない「隠された事実」があるからだ。
それは何か?
実は、「円安になるとGDPが上がる」のだ。
「実は」と書いたが、これは世界の常識中の常識だ。日本以外では「実は」でも何でもない。
国にとっても「良い話」のはずなのに
GDPとは「国内総生産」のことだ。
一定期間に国内で生み出されたモノ、またはサービスの付加価値を合計したもので、国の経済状況を表す指標とされている。GDPが前年と比べてどれだけの割合で伸びたかによって、経済成長率が分かる。
要するに、国はGDPを伸ばしたいと思っている……はずなのだ。
そして、円安になるだけでGDPは上がるのだから、どう考えても国にとって悪い話ではない。
ところが、この事実を国はもちろん、マスコミも指摘しないのである。
もちろん、円安によってすべての企業が恩恵にあずかるわけではない。マイナスに作用する企業もある。
特に中小企業は円安を歓迎しないことが多い。
円高がメリットとなる輸入業なら中小企業も参入しやすいが、円安がメリットとなる輸出事業ができるのは世界のエクセレント・カンパニー、いわゆる超優良企業が大半で、中小企業には難しいのが現状である。
ただ、先にもふれたように、円安になるだけでGDPは伸びる。
だいたい10%円安になると、成長率は0.5~1%上がる。
それにより給与も上がる。
1ドル=110円だったドル円レートが130円になれば、2割くらいの円安となるが、このときGDPも2%くらい伸びる。
逆に10%円高になると、0.5~1%、成長率は下がる。