インフレ率が2%になると賃金は3%上昇
基本的に、インフレ率が2%に近くなると、賃金の上昇率は3%に近くなるとされている。物価も賃金も両方上がっていくなら、値上げに動揺することもないだろう。
もし、値上げが進んでいるのに、いつまでたっても賃金が上がらないなら、これはたしかに「おかしいぞ」ということになる。
しかし、物価が上がった時点で「ヤバいぞ!」「金利を上げろ」と騒ぐのはおかしい。特に、滞っていた経済活動が復活の兆しを見せている現状を考えれば、騒ぐようなことではないと分かる。
「円安による物価上昇で、1世帯あたり9万6000円、負担が増える」といった記事がいろいろなところで出ている(2022年12月)。日本全体でおよそ5兆円だ。
一方で、企業の収益は過去最高で28兆円と報じられている。
差し引き23兆のプラスだ。しかし、この点についてマスコミは触れない。
私たちはこういう情報空間で「悪い円安」と刷り込まれているのである。
「負担増が5兆円か。ではプラス面はどのくらいだろう、企業収益は?」という視点を持っていれば、円安を悪と決めつけることがいかに間違っているか、すぐに分かるのだ。
逆にいえば、その視点を持っていないと、マスコミの論調に乗せられることになる。
物価上昇は給与アップにつながっていく
物価の上昇は、一時的には家計を圧迫するだろう。視聴者目線でメディアが騒ぎ立てるのも仕方がない面もある。
だが、物価は「上がって終わり」ではない。そこから成長率のアップ、給与のアップへとつながっていくのだ。
しかしマスコミはこの点には触れない。「円安→物価上昇」でストップして「悪い」と騒ぎ立てる。連続ドラマの第1話だけ見て結論づけるのと似ている。皆さんは、こういう報道に踊らされないでほしい。
長い目で見れば、ある程度までの物価上昇は、日本経済が良い方向へと進んでいる証拠だ。先に説明した高圧経済をとるべき状況でなければ、2%程度までなら失業率も上がらないのでGOODなのである。
物の値段が上がらず、経済が停滞したままの方がずっと悪いのである。
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。数量政策学者。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究学科教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、内閣府参事官、内閣参事官等などを歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年に退官。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。