評価されるべき能力はそもそも何か
その仕事に必要な能力は何か。その能力は性別によって習熟の度合いが違うものなのか。特定の性別がその能力をより多く持っている、という前提はかえってその能力の向上や共有を難しくしていないか。
「女性のわりには」はこうした重要な問いについて考えることを放棄する言葉です(もちろん「男性のわりには」も同様です)。言われた側はうっかり喜んでしまって言った側をつけあがらせないために、言いそうな側は根拠のない自惚れに足を取られないために、性別に関係なく、「評価されるべき能力はそもそもなんなのか、それを性別と結びつけることで曖昧なままごまかしていないか」に注意を向ける必要があるでしょう。
抜け出すための考え方
「男中心」の環境とは、「男らしい」特徴が有能さの基準となっているだけでなく、有能さの基準を「男である」というだけで満たしていると前提してしまう環境のことでもあります。「女性のわりには」を好意的な評価として放置せず、必要とされている能力そのものの中身に焦点を戻す必要があります。
もっと知りたい関連用語
【性役割】
「男性ならばこうすべき/でない」「女性ならばこうすべき/でない」といったふるまいに関する要求は、単独で作用するのではなく、組み合わさって「男性とはこういうもの」「女性とはこういうもの」というイメージとなって個々人に課されます。こうした、期待されるふるまいの組み合わせ全体のことを性役割と呼びます。仕事の進め方や会話のモードも、多くの場合は複数の要求の組み合わせとして課されるので、性役割の一例と考えることができます。
もっと深まる参考文献
大沢真理、2020『企業中心社会を超えて――現代日本を〈ジェンダー〉で読む』岩波現代文庫
1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(相関社会科学コース)博士課程単位取得退学。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教を経て、現在、早稲田大学文学学術院准教授。専門は、社会学、クィア・スタディーズ。著書に『「ゲイコミュニティ」の社会学』『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』『10代から知っておきたい 女性を閉じこめる「ずるい言葉」』。(プロフィール写真:島崎信一)