「女性らしさ」に合わせた職場環境にすればいいのか

男性と女性は仕事の進め方や会話のモードが異なるにもかかわらず、職場環境は男性の仕事の進め方や会話のモードが標準になっているから女性は働きにくいのだ、という側面はたしかにあります。「男の子として」「女の子として」育てられることによって、男女で仕事の進め方や会話のモードが異なってしまっているということはありそうです。

では、女性のやり方や会話のモードに「配慮」して職場環境が整備されればよいのでしょうか? でも、これは結局、女性の「女性らしさ」に合わせて職場環境を整備する、ということですよね。女性は「女性らしく」活躍することを推奨される、というのは余計なお世話ではないでしょうか。男女の性差はあくまで傾向の違いですから、いわゆる「女性らしさ」を持たない女性もいます。そういった女性にとってはこの環境整備はかえって不利になってしまう点も問題です。

男性は「融通が利く」のか

ここで先ほどの会話に戻ってみましょう。焦点になっているのは、「融通が利く」という長所ですが、それって本当に男性に特有の長所なのでしょうか? 「性別は今は関係ないよね?」と思うのであれば、この前提をそもそも疑ってよいはずです。

森山至貴『10代から知っておきたい 女性を閉じ込める「ずるい言葉」』(WAVE出版)
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たとえば、逆に女性の長所として「融通が利く」ことが挙げられる場合も珍しくないと思いませんか? だから、まったく同じ含みを持たせて、「男のわりには話が通じる」と女性が発言することも可能です(が、やはり正しくない気がします)。

「女性のわりには」にイラッとする理由には、この点もじつは含まれているのではないでしょうか。つまり、「女性のわりには」と男性が発言することで、発言した男性はいつの間にか「融通が利く」という長所を持っていることになっている、その前提が不当だからではないでしょうか。

ましてやこの男性は、その前提のもとに女性をジャッジしているわけですから、「男ってだけで自分が融通の利く人間だと考えるのはただの自惚れ」と言ってやりたくなるのも当然だと思います。

「男中心」の環境とは、「男性の得意なこと」が評価される環境であるだけでなく、評価されるべき能力を男性(だけ)が持っていると前提してもらえる環境でもあるのです。この観点から考えると、女性が働きやすい職場とは、男性の仕事の進め方や会話のモードを標準としないだけでなく、職場での能力を「男性の長所」として男性が独り占めしてしまう雰囲気を持たない職場だ、と言えるでしょう。

アバターの肖像画のシルエット
写真=iStock.com/Veronika Oliinyk
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