認知症の症状「取り繕い」で介護認定がピンチ

いよいよ当日、介護支援専門員に渡すべく、私は老父母それぞれの問題行動を箇条書きにしたA4のプリントを用意して面接に臨む。普段はできないことも、介護支援専門員の前では必要以上に張り切って、「特に問題はない。自分で何でもできる」と断言し、実態とはかけ離れた介護度に認定されてしまうことがよくあるという情報を事前に得ていたからだ。

こうした体面を保とうとする行動も、「取り繕い」と言われ、認知症の初期に見られる症状のひとつなのだとか。

面接と聞いて、老父母共に多少緊張しているのだろう。

「散らかってますけど、まあどうぞどうぞ」

「ご苦労様です」

やって来た介護支援専門員を、いつもとは違ったよそ行きの顔で迎え入れる。

「どうですか? 何か困ったことはありませんか」

「特にねーよ」

老父がのんきに答えた。それはそうでしょ。困っているのはあなたじゃなくて私なんだから。

「食欲はありますか」

「あるよ。よく食べてますよ」

食事のたびに、わがまま放題で「あれがやだ、これがやだ」と宣い、「だったら食わねー」と駄々をこね、家族を困らせているにもかかわらず、他人様にはやはりいい顔をしたいのだろう。しれっと優等生の答えをする。

「体調はいかがですか? 痛いところとかありませんか?」

「そうだなあ……。腰はいてーし、目はどんどん見えなくなるし、まあ、年だから仕方ねーんだけどよ」

打ち解けてくると、老父は実態そのままを話しはじめる。だがここで、気の強い老母が本領を発揮する。

老人ホームでのステナを抱いた先輩女性
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです

他人の前では「自分でできる」と見栄を張る母

普段は、「おー、腰が痛い」とか、「膝が痛くて階段を上がるのがやっとだ」とか、これ見よがしにアピールしては、整形外科への送り迎えをさせているにもかかわらず。「痒くて死にそうだから皮膚科まで大至急乗せてって」と、こちらの都合などお構いなしで指令を出してくるにもかかわらず……。

「痛いところもないし、何でも自分でできるから、息子や娘を当てにしなくても生活できてるのよね」

どや顔で主張しはじめる。さらには、「近所の人たちからも、しっかりしてるからとても90歳には見えないってよく言われるのよ」とか、「どこへ行っても年より若く見られて。つい最近も、カラオケに行ったら、声に張りがあるから70代かと思ったって言われちゃった」とか、聞かれてもいないことをベラベラとしゃべりまくっている。

もうここまで来ると、「取り繕い」どころの騒ぎではない。呆れて顔を歪めている私のことなど目に入らないのだろう。「すごいですね」「確かに、お若いですね」と言われたい一心なのか、「秋におこなわれるカラオケ大会に、町内の代表で出てくれって区長さんから頼まれちゃって」猛烈な勢いでアピールしはじめる。だがしかし、我の強い老母が見栄を張ったがために、実態とはかけ離れた介護区分に認定されてしまったら、介護する側は堪ったものではない。