最後に親の日常を書面にまとめて専門員に渡す

面接を終えた専門員を庭先まで送りながら、用意しておいたA4のペーパーを手渡し、「病院で[長谷川式認知症スケール(アルツハイマー型認知症の判定に使われる)テスト]をすると、二人共30点満点中20点以上になりますし、足し算や引き算などの計算も得意なんですけど。このところ感情のコントロールが利かなくなってきていて。気に入らないことがあるとすぐ激高するので、その辺りのことをまとめておきました」と、口頭で付け加える。

認知症には記憶障害が表われる[アルツハイマー型認知症]のほかにも、幻覚や手の震えなどの症状が出やすい[レビー小体型認知症]や迷惑行動などを取るようになる[前頭側頭型認知症]などがあるそうだ(詳しいことは専門家のサイトや著書を参考にしていただきたい)。だからこそ長谷川式の判定では見落とされがちな症状を介護度に反映してもらうためにも、事前に打てる手は打っておくに越したことはないだろう。そう判断し、書面にまとめておいたのだった。

医療費の概念のための計算
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

慣れない面接で疲れたのだろう。茶の間を覗くと、老父母は早くも船を漕ぎはじめている。

そんな二人を横目で眺めながら、

「お主ら、私を甘く見るでないぞー」

悪代官張りの台詞を心の中でつぶやく。そして、次の手を打つべく、老父母のかかりつけ医にそっと面会の予約を入れる。

主治医を味方に付けることも重要

面接を終えたからといって気を緩めてはいけない。要介護状態区分の決定までには、コンピューターの分析による一次判定と、介護認定審査会による二次判定(認定調査票の特記事項と主治医の意見書の整合性を確認する)を経なければならないのである。要は、主治医の意見書が介護認定に大きな影響を及ぼすということだ。

実際、失禁や妄想の症状があり、家族の負担がかなり重くなってきているにもかかわらず、「要支援2」のままで、「要介護1」にならなかったという介護経験者の話を聞いたことがあったので、念には念を押し、老父母の日々の言動を箇条書きにしたA4の用紙を持ってかかりつけ医の元へと私は急いだ。

「四六時中どうでもいいようなことで怒鳴り合っているので割って入ると、その矛先をこちらに向けてきて。先生、こんな状態が続いたら、こっちが参ってしまいます」

切々と訴えると、

「感情を抑えることができずに、同居する家族に理不尽な感情をぶつけてくるのは典型的な認知症の症状ですね」

認知症患者の家族が置かれている状況を熟知しているのだろう。こちらの心情をすぐにくみ取ってくれる。この段階でまずはホッとし、気持ちがほんの少し楽になる。一人で抱え込んだところでいいことなど何ひとつない。