青ざめるマスコミ、留飲を下げた企業PR

YouTube記者会見へオンライン参加して必死に質問の手を挙げ、青ざめるマスコミ側とは異なり、そのマスコミの姿を見て「トヨタ、さすがだ」と留飲を下げていたのは、錚々そうそうたる大企業の広報や経営企画など、自社広報とマスコミの間で忸怩じくじたる思いを抱えてきた人々だ。

彼らもトヨタ同様、マスメディアと持ちつ持たれつ自社の商品や経営などをPRする一方で、経営者の真意が伝わらずゆがんでジャッジされる、労災事故やリコールや投資、M&Aの失敗などがあった場合に容赦ない叩かれ方をするなど、マスコミに「資本の犬」「民衆の敵」扱いされることに傷つき、憤りを抱えてきたのだ。

あるメーカーのPRは筆者にこうこぼした。

「消費者や投資家に向けた企業イメージの担保や情報開示など、事業会社の安定した経営には有効な企業広報が不可欠です。それにはマスメディアとの友好的な関係を築き続けることが大切なのですが、我々の側がどれだけメディアに対して誠実な姿勢をとっていても、特に新聞などは取材先に記事チェックをさせない方針を堅持しておられますから、思いもかけない見出しや一方的な記事内容を紙面で見て、社内で大問題になることもあるんです。裏切られたような悔しさの中で恨めしく思うんですよ、『あなたたちは、自分たちが売れればそれでいいんですか』って」

「第4の権力」と呼ばれてきたマスコミだが、企業が自社PRの進んだ方法論を身につけることで、マスコミ依存を脱却しよう、力学を変えようとする動きがある。ましてトヨタほどの資金力と人材の収集力があれば、自社媒体の持つ力は決して無視できない。ゲームチェンジの一端は、今回のトヨタ社長交代で確かに目撃できたのではなかろうか。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト

1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。