やっとわかった「トヨタイムズ」の本当の意味
その後もCMで“編集長”という役柄を与えられていた香川照之がセクハラで活動自粛するに伴い降板、報道ステーションキャスターを務めた富川悠太がテレ朝を退職してトヨタへ移ったことがニュースとなり、そういった一種スキャンダル含みの扱いの中で、トヨタイムズが大手マスメディアの目に非常に大きな脅威として映っていたとはいえなかった。
ところが今回、マスメディア、特にテレビや新聞、雑誌などのいわゆるオールドメディアは、世界企業トヨタと長い歴史をかけて繋いできた自分たちの関係性が「トヨタイムズ」の前で一律リセットされたことに衝撃を受けただろう。
トヨタイムズは情報を厳格に社内にとどめ、マスメディアから「ニュースバリューを奪う」、つまりマスコミ外しのための仕組み。本当にニュースがあるのは事業会社の現場である、何がニュースであるかはマスコミではなく自分たちが決めるのだ、と。
「8割減益」報道への違和感
もちろん、トヨタの意図に既に気がついていた者も少なくはなかった。トヨタイムズのスタート以来、決算後の会見は中間と本決算の年2回に減らされ、豊田章男社長は大手メディアのインタビュー依頼にもほとんど応じず、情報発信をトヨタイムズに事実上集約させていた。トヨタイムズがあるから、ごく限られた(章男氏に信頼された)記者やジャーナリストくらいしか本人の生の声を聞くことができない、という状況が常態化していた。
その中で囁かれていた、豊田章男氏のマスコミに対する姿勢が大きく変節したきっかけとはコロナ禍での「トヨタ8割減益」報道である。
先の見えぬコロナ禍、社会が活動自粛の只中にあった2020年5月の本決算で、トヨタは他社が発表を見合わせる中、一社のみ果敢にも5000億円の黒字予想を発表した。それは日本を代表するグローバル企業であり、国内外に傘下企業や従業員を数多く抱えるトヨタならではの、「何があろうとも5000億円の利益は確保する」と未曽有の疫災にすくむ世界に向けた決死のメッセージ発信であったという。
ところがそのポジティブなはずのメッセージは、翌日の新聞では「トヨタ衝撃、8割減益の5000億円、危機再び」というまるでネガティブな扱いを受けた。真意とは真逆の報道に豊田章男氏は幻滅し、それまでにも感じてきたマスコミへの不満や不信から、トヨタイムズへの全面シフトを開始。マスコミ外しを徹底した結果が、今回の「トヨタイムズしか知らない」トップ交代劇となったのだ。