財源不足と少数派となりつつある子育て世帯

1つ目は、「財源」です。

日本の財政事情は非常に厳しく、国の歳出のうち、税収で5割程度、国債で4割強をまかなっています。借金の比率が高く、新たな政策を実施する際に慎重にならざるを得ません。特に子育て支援策には巨額の財源が必要となるため、「重要性はわかっているけど、できない」という状況にあると予想されます。

また、日本は高齢化の一途を辿っており、来年の2024年には65歳以上の高齢者人口比率が3割を超え、再来年の2025年には団塊の世代の全員が75歳以上の後期高齢者となります。これによって医療・介護の社会保障費のさらなる膨張が見込まれており、日本の財政を悪化させる恐れがあります。

このような状況下で巨額の財源が必要となる思い切った少子化対策を実施するのは難しいでしょう。

2つ目の障害となるのは、「有権者に占める子育て世帯の減少」です。

出生数の持続的な低下を受け、児童のいる世帯割合は低下し続けています。1986年には全世帯の46.2%に子どもがいましたが、2021年には20.7%にまで落ち込んでいます(図表1)。

この数字は、子育て世帯が今では「少数派」になりつつあることを意味します。代わりに、高齢者世帯や未婚世帯の比率が伸び続けています。

この世帯構成の変化は、政策の方向性にも影響を及ぼすと考えられます。多くの政治家は日本のことを懸命に考え、さまざまな政策を検討しているはずですが、政治家として地位を選挙で維持する必要もあります。

このため、どうしても有権者比率の多い層を重視した政策を実施せざるをえないところがあるのではないでしょうか。

今こそ少子化対策を拡充する政治的決断が必要

今回の小池都知事の政策は、日本の少子化対策の3つの課題を炙り出したと言えます。いずれも国としての少子化対策の在り方を問うものです。

現在、少子化が進む背景には、(A)女性人口、(B)婚姻率、(C)有配偶出生率の減少が影響しています。このため、「異次元の少子化対策」で検討されている内容では必ずしも十分ではなく、少なくとも婚姻率の低下にも対処した政策が必要でしょう。

日本の場合、一定の経済的な条件が整わなければ結婚に踏み切らない人が多いため、所得の安定・向上を促す政策を強化する必要があります。このためにも経済成長を促進し、将来にわたって経済的に不安にならない環境を整備することが重要です。これは経済・雇用政策であり、子育て支援策とセットで実施されるべきです。

このような政策を実施するには財源問題が付きまといます。しかし、ここまで少子化が進んでしまった現状を考慮すると、今こそ政治的決断によって少子化対策を拡充すべきではないでしょうか。

(*1)藤波匠(2022)「『子どもをもう1人ほしい』という希望が打ち砕かれている…日本の少子化が加速する根本原因 『若者が結婚しないから』が理由ではない」プレジデントオンライン
(*2)山口慎太郎(2021)「少子化対策のエビデンス」財務総合政策研究所「『人口動態と経済・社会の変化に関する研究会』報告書」第4章

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。