男性を先に部長に昇進させたとんでもない理由

一つ目の“石”が、「課長代理」、「課長」と昇進した岸井さんにとって、次のステップである「部長代理」に、なかなか上がれないという焦燥だった。

当時、難易度の高い仕事をこなしていた。見事な功績を上げ評価も高かったが、昇格の声は聞こえてこない。

「これで上がれないなら、何をしたら上がるんだろうって途方にくれました。男性だったら、絶対に上がっていると思います」

そして、もう一つの“石”もまた、その先に横たわっていた。「部長代理」から「部長」への昇進に関わる時のこと。

「部長代理になった時、部長に上がれる枠が2枠でした。その時、部長代理は3人いました。私以外は男性です。その男性2人が、部長に昇進していきました」

日当たりの良い廊下を歩いていく二人の男性社員
写真=iStock.com/LeoPatrizi
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その時、上司から告げられた理由を岸井さんは今でも忘れない。

「岸井は来年でも、部長に上がれる仕事のネタを持ってるだろ」
「えっ? それが理由ですか?」
「男性2人は、来年だと上がれないから」

岸井さんはここでぐっと、心の叫びを呑み込んだ。

「来年には上がれないという人を部長にしていいんですか!」

この時ばかりは、家で荒れた。

「私はどうやってでも、部長になりたいんだ! 代理なんて、取り払いたいんだ!」

毒づく母を、娘がそっと見ていた。

「代理」という期間が心にアンバランスを起こす

「代理っていう期間が、心にアンバランスを起こすんです。脅迫されているようで。ちょっとでも失敗したら、下に落とすぞって。代理の期間は2年。あとは、上がるか下がるかしかない。だから、1年で上がりたい」

この時、部長に昇進した一人はさっさと退職した。部長という箔をつけて、有利に転職するために。もう一人は子会社への異動を希望した。子会社の方が昇格しやすいからだ。

こんな2人をわざわざ、部長にしたわけだ。岸井さんは2年間我慢して部長になったが、理不尽な処遇に、悔し涙を流す1年を送ることとなった。

そうまでして、岸井さんが昇進を目指すのにはどんな理由があるのだろう。

「見える景色が違うんですよね。入ってくる情報も違うし、同じ案を通すにしても一般職よりも課長が、課長より部長が通しやすいというのはやっぱり事実です。部長同士、組織の壁を越えて話すことで、仕事がしやすくなるという面白みもあります。上を目指す、高みを目指すということに、私は醍醐味を感じています。階段を上りたいって思うようになったのは事実ですね」

念願の部長になった岸井さんだが、その直後から思いもかけぬ災厄が降りかかる。自身の更年期という不調だった(後編に続く)。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。