脱マスクに踏み切った会社も出た
国内で初の新型コロナウイルスの陽性者が確認されたのは2020年1月15日――今からちょうど3年前になる。その間、未知の感染症だった第1波から現在の第8波に至るまで、変異を続けるウイルスに翻弄されながらも、ようやくコロナ前の日常が戻りつつある。世界的にもゼロ・コロナ政策を続けた中国が対策を大幅に緩和するなど、再び「コロナ禍」に逆戻りすることは考えにくいのが現状だろう。
その一方で、コロナ禍で定着した日常的な感染対策をいつまで続ける必要があるのだろうかという疑問も浮かぶ。代表的なのがマスク着用だ。マスク着用がコロナ感染を抑える効果については数多くの有力な研究があり、おおむね着用によって感染はある程度抑えられているといっていいだろう。
その一方で、これほど日常的にマスク着用を続けたことは人類史上初めてのことであり、何らかの副作用がないのかに関しても気になるところだ。多くの人が着用を続けていることをみると、副作用の「実感」はないと考えていいだろうが、マスクは息苦しいので単純に仕事のパフォーマンスが落ちるのではないかという懸念もある。コミュニケーション上も顔が見えないことは大きな情報の損失だろう。実際に、インターネット大手のGMOは実際に「在宅勤務とマスクを続けていたらビジネスでは勝てない」として2022年10月に社内の脱マスクに踏み切った。
チェスの「手の質」でマスクの効果を測定した論文
こうしたマスク着用と仕事のパフォーマンスにかかわる論点に関して、最近クイーンズランド大学のデヴィッド・スメルドン博士が世界的科学雑誌の米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)に有力な論文を2022年10月末に発表している。
博士が解析の対象としたのは世界中でコロナ禍でも行われていた8531人による45272ゲームに及ぶ膨大な「チェス」の試合の記録だ。チェスは高度に知的なゲームである上に、AIが既に人間のプレーヤーよりも強いこともあり一手一手の質について客観的に判定できる。博士は300万手の評価値を取得し、各プレーヤーのゲームごとの平均的な手の質を数値化した。なお、分析に含まれたのは217の国際トーナメントであり、そのうち71の大会でマスク着用義務があったという。