店頭でこっそり聞く顧客の会話内容

――「スマホ毛布」のようなユニークな商品は、社内で企画を通すのが大変なのではないかと思うのですが、現場や若手の意見が通りやすいのでしょうか。

【小田】ニトリには「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」という企業理念があり、それに共感して入社する若手が多いんですね。ですから多くの従業員が「こんな商品を作りたい」とか「多くの方に買ってもらいたい」という考えで仕事をしているので、みんなでどんどんアイデアを出す基盤ができています。

さらに従業員ならだれでも「こんな商品があったらいい」というアイデアを提案できるコンテストがあり、実際に商品化された例がいくつもある。お客様の不便や不満を解消するものであれば、基本的にチャレンジさせてくれる会社だと思います。

――実際に商品を買って使っているお客様の声はきちんと追われていますか。

【小田】ええ、自分が作ったものがどう受け止められているかは、一個人としてもすごく興味があって、常に追っています。週に一度は店舗に行って、聞き耳を立てるわけではありませんが(笑)、ついお客様の会話を聞いてしまいます。店頭で商品を選ばれている方々の、「これとこれ、どっちがいい?」「どこが違うの?」といった会話が一番貴重な声です。

またSNSでは、横になった状態でスマホを見る時に使うだけではなく、起き上がってパソコンに向かって仕事をしたりテレビを見る時も暖かく過ごせるなど、自分たちが想定していなかった使い方も広まっていきました。

チャレンジして負った傷ならかまわない

――商品開発の失敗のご経験があれば聞かせてください。

【小田】いろいろありますが、商品に機能を付けすぎて失敗したことがありますね。あるとき、枕の生地自体にビタミンが配合された美容枕を開発しました。寝ながら髪や肌を保湿できるという商品なのですがなかなか売れず……。そもそも寝る前に化粧水やククリームを付ける方にはそれほど必要な機能ではなかったかもしれないし、だいたい、枕にはカバーをかけますよね(笑)。もちろんカバー付きで売ったのですが、そのまま使うのも抵抗があるらしく、結局カバーの上にカバーをしたりしてあまり意味がなかった。そんな機能があるということも、お客様には伝わりにくかったと思います。

――スマホ毛布はその点とてもわかりやすく、伝わりやすかったですね。ちなみにそういう失敗があったときは、何が間違っていたのかを分析しますか。

【小田】はい。売れなかったものはその理由を分析して次につなげます。お客様が本当に求めるニーズを絞りこむことで、より売れる商品にしていくことができると思います。

そのためには、失敗できる風土が必要です。よく上司から言われたのが、「前向きにチャレンジして負った傷ならかまわない。後ろを向いて負った傷は絶対ダメだ」ということです。何もチャレンジせず、あとで「やっておけば良かった」という後悔からは何も生まれない、という言葉は染みついています。

――だから次々にアイデアを出せるんですね。よくわかりました。本日はありがとうございました。

聞き手・桶谷功より
消費者のインサイトをつかまえるには、SNSの分析や消費者インタビューなど、さまざまな方法があります。しかしニトリでは従業員の生活実感からアイデアを出し、顧客の不平・不満・不便を解決する商品を開発している。おそらく調査結果の数字よりも、顧客の声や生活者としての実感を重視しているのでしょう。それは似鳥会長はじめ上層部が、大企業になった今でも、生活者としての実感を大切にしていることが大きいと思います。今後もニトリの新商品が楽しみです。
桶谷 功(おけたに・いさお)
インサイト 代表取締役

大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ