「すごい!」「さすが!」で持ち上げる

「好き嫌いが激しい上司」と同様、「有能アピール上司」も非常にやっかいです。距離を取るのが一番安全ですが、直属の上司ともなればなかなかそうもいきません。機嫌を損ねると、失敗の責任を押し付けられたりして被害を被ることになるので、やはり万能感を傷つけないよう、ささいなことでも「すごいですね!」「さすが!」と持ち上げたり、褒めたりするしかないでしょう。痛々しいばかりの光景になりますが、明らかなお世辞であっても、疑いなく受け取るところがありますから、効果はあるはずです。

「管理職の能力に欠ける」会社や産業医に相談を

好き嫌いが激しかったり、肥大した万能感を持っていたりしても、現場の仕事では成果を上げられる人もいます。そうすると、本来は管理職としての能力に欠けているのに、会社から評価されて管理職に登用されることがあるのです。

ただ、上司となると、部下を正当に評価しなかったり、失敗を部下のせいにしたり、無茶な仕事をとってきて部下に無理を強いたりと、実害が出てきます。ただの「イタい人」では済まなくなりますが、部下が個人としてできる対応には限りがあります。

まずは、その「迷惑上司」のさらに上司に、相談してみるとよいでしょう。こうした上司は、ある日突然困った行動をし始めるわけではないので、おそらく過去にも多くの退職者が出ていたり、相談が上がっているはずです。同じチームの同僚で、被害を受けている人がほかにもいれば、協力して一緒に相談するのもよいでしょう。

好き嫌いが激しい上司が、「あいつには何も教えない」などと特定の部下を無視したりすることは、立派なハラスメントなので、これも、上司の上司やハラスメント相談窓口に相談してみてください。私が知っているケースだと、部下から相談があったことがきっかけで会社が調べてみると、その上司の下についた歴代の部下が心身の調子を崩しており、結局パワーハラスメントと認定されて懲戒の対象になったこともありました。

有能アピール上司の場合、ムチャぶりが多いようであれば、上司の上司に相談するのがファーストステップです。また、ムチャぶりのせいでチームメンバーの残業時間が増えることも多いので、そこから問題が表面化することもあります。うまくいけば、上司の上司や人事から、その上司に対し、「ちゃんと現場の意見を聞いてから仕事を受けるように」など、マネジメントの仕方を見直すよう促したりしてもらえるでしょう。

いずれのパターンの上司も、とりあえずは自分が攻撃の対象にならないよう、ゴマをすったりしてやり過ごしながらも、周りの人や上司の上司、体調不良が出ているなら産業医に相談するなどし、会社として対応してもらうことをお勧めします。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。