問題を抱えた“迷惑上司”にあたってしまったら、どうしたらいいのか。産業医の井上智介さんは「最近『好き嫌いの激しい上司』や『有能アピールをしまくる上司』の相談が増えている。いずれも、自分が攻撃の対象にならないよう、ゴマをすってやり過ごすしかないが、こういう上司は個人で成果を上げる力はあっても管理職としての能力には欠けているので、会社で対応してもらえるよう相談したほうがいい」という――。
背を向けたとたん書類を破く上司
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好きな部下、嫌いな部下で態度を変える上司

私は企業の産業医を務めていますが、最近よく相談を受ける「迷惑上司」には2タイプいます。

一つ目は「人の好き嫌いが激しい」上司です。

人の好き嫌いは、誰にでもありますが、部下をマネジメントする立場の人に、極端な好き嫌いがあると問題です。

気に入っている部下には自分からあいさつをするけれど、そうでない部下だと、あいさつされても反応が薄かったり無視したりする。好きな部下には自分から積極的に話しかけるけれど、そうでない部下には話しかけない。

さらには、気に入っている部下には重要な仕事、注目されている仕事を任せ、そうでない部下には面倒な仕事ばかり割り当てる。仕事の評価についても、好き嫌いで左右させてしまいます。

ささいなきっかけで突然「嫌いな人」認定

こうして、ふだんから好き嫌いがわかりやすく出る上司は、今まで「好き」だった人でも、急に「嫌い」になることがあります。

Yさんという方から、こんな相談を受けたことがあります。

Yさんと上司は、それまでは仲が良く、コミュニケーションも良好だったのに、ささいなことで上司が激高し、それ以降、態度が急変したそうです。

何が引き金になったのか聞いてみると、ある時Yさんが、頼まれた仕事を「今手いっぱいなので難しい」と断ったのだといいます。Yさんいわく「地雷を踏んでしまった」と。

それで、これまで築いてきた関係性が崩れ、Yさんは上司から「嫌いな人」認定されてしまったわけです。しかもその上司は、以前Yさんの案を採用して進めていたプロジェクトを、いろいろと理由をつけて突然却下し、ほかの人の案に変えてしまいました。

人を「敵か味方か」でしか判断できない

好き嫌いの激しい上司の多くには、強い「見捨てられ不安」があります。こういう人は、人を敵か味方かでしか判断できず、中間がありません。人から見捨てられることに恐怖心があるため、味方にはべったりと依存してできるだけ近いところにいてもらおうとしますが、少しでも自分から離れるそぶりがあれば裏切り行為とみなして「敵認定」してしまいます。

その原因は人それぞれですが、よくあるのは親からの愛情不足です。「親に捨てられるのではないか」という不安を抱えたままで大人になったケースです。また、過去に家族や親友から裏切られたといった経験がある人も、見捨てられ不安が強くなることがあります。そうすると、大人になってもなかなか自分に自信が持てず、自己肯定感が低くなったり、情緒が不安定になったりします。

こういったタイプの人は、「信頼できる」と感じた人への依存が強くなる傾向があります。だからこそ、今まで自分に忠誠心を見せ「味方」だった部下が、自分の意に沿わない言動をしたり、自分から離れたりすると、裏切り行為のように感じてしまいます。そして敵と認定して、攻撃の対象にしてしまうのです。

「敵」「友達」と描かれた木製ブロック
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「敵ではない」と思わせる努力をするしかない

こういう上司への対応は、なかなか難しいです。一度嫌われた人から好かれるようになるのは、ふつうでも難しいのに、こうした極端なタイプの上司が相手だと、なおさら大変です。

上司に嫌われたままで、できるだけ距離を取りながらやり過ごすという方法もありますが、そうすると結局、居心地が悪くなりつらくなるのは部下である自分の方です。

ですから、少しでも状況を改善したいと思うなら、上司に「あなたの敵ではない」と伝える努力をしていくしかありません。できるだけ上司を不安にさせないよう、密なコミュニケーションをすることも必要になります。

たとえば仕事がうまくいったら、上司に一言「あなたのおかげでうまくいきました」と伝える。ミスした場合に頼るのもいいでしょう。「失敗したから助けてほしい」「力を貸してほしい」とはっきり言葉にして、「あなたが必要なんです」「頼りにしています」ということを伝えて、距離を縮めていきます。まさに「ゴマをする」感じがしてイヤかもしれませんが、こういうタイプは頼られると喜ぶことが多いので、割り切ってやってみるのも手です。

周りに有能アピールをしまくる上司

もう一つの「迷惑上司」は、有能アピールしまくりな人です。

とにかく称賛されたい、特別視されたい、という思いが強く、いたるところで自分が有能であることをアピールしようとします。

難しい仕事を簡単に引き受け、失敗したら部下のせい

「オレの部下でよかっただろ?」と直接、部下に同意を求めたりすることもあります。また、よくあるのが、今目の前にいない人をおとしめることで、周りに有能さをアピールするといった言動です。たとえば「あのクライアントは全然わかっていないから、オレがここまで説明してやらないと理解できないんだよ」「あの案件は、隣のチームの○○が担当したらしいけど、1週間もかかったらしいな。オレだったら2日でできるんだけどな」などと吹聴したりします。

それだけなら、ただの「イタい人」ですが、問題は、自分の有能さを知らしめたいがために、難易度の高い仕事を「できます!」と簡単に引き受けてしまうことです。

ただ、引き受けたのは上司でも、実際苦労するのは部下たちです。「こんな難しい仕事を、こんなに短い納期でやるなんて無理でしょう!」と反論しても後の祭り。それでトラブルが発生しても、上司の方は「部下の能力不足のせいだ」と捉えて自分の責任だとは考えません。

「できない」が受け入れられない

このタイプの上司は、「肥大した万能感」を抱えています。

小さい時は、誰でも万能感を持っています。周りの大人や、年長のきょうだい、友達がやっていることを見て、「自分にもできるはず」と考えます。そして、高いところに登ろうとしたり、飛び降りようとしたり、大人が使っている機械や道具を使おうとしたりします。でも実際にチャレンジしてみると、できたりできなかったり。そうして挑戦と失敗・成功を繰り返すなかで、現実と折り合いをつけていきます。

しかし、たまたま親や先生、友人などの人間関係や環境に恵まれて、自分の望んだことがかなってきた人や、親が敷いてくれたレールの上を歩み、大きな失敗や挫折をすることなく生きてきたという人もいます。うまくいかなかったとしても、親や環境のせいにできるので悔しくもありませんし、自分の力が足りないせいだと考えないので「失敗」や「挫折」とは捉えません。

結局、子どもの頃に持っていた万能感を持ったままで大人になってしまい、理想と現実の間のギャップを埋めることができません。でも仕事では、自分は「できる」と思っていても実際は「できない」ということがたくさん出てきます。そこで自分の抱える大きすぎる万能感が傷つけられることが許せず、失敗も周りのせいにしてしまいますし、有能さをアピールしないと心が持たないというわけです。

このタイプの人たちは、「すごく忙しい」「全然寝てない」「体調は悪いけれど頑張っている」といったアピールをする傾向もあります。また、絶えず自分の万能感が傷つけられる恐怖を抱え、心が満たされずにイライラしていることも多いのです。

「すごい!」「さすが!」で持ち上げる

「好き嫌いが激しい上司」と同様、「有能アピール上司」も非常にやっかいです。距離を取るのが一番安全ですが、直属の上司ともなればなかなかそうもいきません。機嫌を損ねると、失敗の責任を押し付けられたりして被害を被ることになるので、やはり万能感を傷つけないよう、ささいなことでも「すごいですね!」「さすが!」と持ち上げたり、褒めたりするしかないでしょう。痛々しいばかりの光景になりますが、明らかなお世辞であっても、疑いなく受け取るところがありますから、効果はあるはずです。

「管理職の能力に欠ける」会社や産業医に相談を

好き嫌いが激しかったり、肥大した万能感を持っていたりしても、現場の仕事では成果を上げられる人もいます。そうすると、本来は管理職としての能力に欠けているのに、会社から評価されて管理職に登用されることがあるのです。

ただ、上司となると、部下を正当に評価しなかったり、失敗を部下のせいにしたり、無茶な仕事をとってきて部下に無理を強いたりと、実害が出てきます。ただの「イタい人」では済まなくなりますが、部下が個人としてできる対応には限りがあります。

まずは、その「迷惑上司」のさらに上司に、相談してみるとよいでしょう。こうした上司は、ある日突然困った行動をし始めるわけではないので、おそらく過去にも多くの退職者が出ていたり、相談が上がっているはずです。同じチームの同僚で、被害を受けている人がほかにもいれば、協力して一緒に相談するのもよいでしょう。

好き嫌いが激しい上司が、「あいつには何も教えない」などと特定の部下を無視したりすることは、立派なハラスメントなので、これも、上司の上司やハラスメント相談窓口に相談してみてください。私が知っているケースだと、部下から相談があったことがきっかけで会社が調べてみると、その上司の下についた歴代の部下が心身の調子を崩しており、結局パワーハラスメントと認定されて懲戒の対象になったこともありました。

有能アピール上司の場合、ムチャぶりが多いようであれば、上司の上司に相談するのがファーストステップです。また、ムチャぶりのせいでチームメンバーの残業時間が増えることも多いので、そこから問題が表面化することもあります。うまくいけば、上司の上司や人事から、その上司に対し、「ちゃんと現場の意見を聞いてから仕事を受けるように」など、マネジメントの仕方を見直すよう促したりしてもらえるでしょう。

いずれのパターンの上司も、とりあえずは自分が攻撃の対象にならないよう、ゴマをすったりしてやり過ごしながらも、周りの人や上司の上司、体調不良が出ているなら産業医に相談するなどし、会社として対応してもらうことをお勧めします。