Work From Anywhere at Anytime

そんなペイペイが、日本国内の好きな場所で、好きな時間に、自由に働き、パフォーマンスを発揮する新しい働き方として、“Work From Anywhere at Anytime(以下WFA)”を発表したのは20年8月。その後、コロナ禍での3回目となる引っ越しは、拡張ではなく縮小に転じた。社長や役員の席はなく、総席数は出社率の上限として定めた25%分しか用意されなかった。

「出社制限を受け、20年3月からリモートワークを導入。最初は、暫定的に感染リスクを避けるためのものでしたが、2カ月ほどリモートで働くと、社長をはじめ、私も生産性が上がる働き方かもしれないと感じ始めたのです。それで、5月ごろから完全在宅勤務の可能性を探りはじめ、9月にはWFAとして正式にスタート。

もしかしたら、反対意見もあったのかもしれませんが、コロナ禍の脅威を前に事業スピードを落とさず、安全に仕事をするためにはやむを得ませんでしたし、人材確保にもつながる働き方。普通なら、石橋をたたいて渡らなければならないのでしょうが、語弊があるかもしれませんが、僕らは『石橋があるなら、渡ってから考えよう』という、失敗に対して鷹揚な気持ちで対処する企業風土があります。それで“100億円あげちゃうキャンペーン”でシステムを止め、家電量販店に長蛇の列をつくってしまったこともありましたが、そのつど反省し、改善してまいりました。でも、それが事業スピードを支えてきたのも事実です。

今のペイペイには、通常の企業にあるミッション・ビジョン・バリューがありません。われわれは日々変わっていきたいので、言葉にすると変われなくなるんですよ。でも、人材募集時に弊社がどういう会社か理解してもらえないので、働くうえで大切にしていることを『PayPay 5 senses』として5つ提示しています。なかでも『スピード』は最も重要な要素。

われわれはユーザビリティを大切にしていますが、それはお客様に対してだけでなく、社員に対してもそう。社員の満足度を上げることは生産性を上げること。顧客や社員のユーザビリティを上げるにはスピードがいちばん大切。やってみて、不備があればPDCAを回してどんどん改善すればいいじゃないかという考え方が設立時から根付いていますから」(走出さん)

コロナ禍による緊急事態宣言が出てからの半年間、非接触ニーズの高まりを受け、ペイペイはコロナ禍を追い風に事業を急拡大させていく。出社制限が求められるなか、スピードを落とすことなく事業を拡大し、それに伴う増員に対応できたのは、リスクを恐れず、チャレンジを繰り返す企業風土があったから。しかし、出社型から在宅勤務への転換で業務上困ることはなかったのだろうか。

「整備しなければならないことは多々ありましたが、困ったことはありません。あったとするとホワイトボードが使えないことくらい(笑)。エンジニアはホワイトボードを使って議論したい人が多いので、代替品を急務で探しました。でも、海外はリモート対策では先駆けているので、ホワイトボード機能が使えるサービスをすぐに見つけることができました」(走出さん)

PayPayのオフィス変遷