アメリカのIT大手の大量解雇の影響が日本法人にも及んでいる。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「アメリカ企業の大量解雇は今に始まった話ではない。業績が低迷するとアメリカ国内の解雇だけではなく、日本法人もその余波を受けてきた。GE(ゼネラル・エレクトリック)社やファイザーでも日本法人の社員が大量に解雇されたことがある」という――。
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原則解雇自由は先進国ではアメリカだけ

ツイッターやメタ(旧フェイスブック)などアメリカのIT大手の大量解雇が日本でも大きな話題になっている。メタは全従業員の約13%にあたる1万1000人超の解雇を発表している。

また、ツイッターを買収したイーロン・マスク氏は年初に約7500人いた社員のうち1週間で約3700人を解雇。さらにマスク氏は追い打ちをかけるように11月16日未明に「長時間猛烈に働くか退職か」を迫るメールを送付。17日午後5時までに同意できなければ、給与の3カ月分の退職金を得て会社に辞めるように促す最後通告を行った。その結果、約1000人が退職し、同社に残留した社員は2700人程度になったとも報じられている。

アメリカのIT業界では10月下旬までに5万2000人以上が削減されたとの調査もあり、11月以降の大手の電撃的解雇により、ITバブル崩壊の様相を呈している。

それにしてもアメリカではいとも簡単に社員をクビにできることに驚いた日本人も少なくないだろう。ネット上では日本もそうなったらどうなるのかと恐れる声や、逆にイーロン・マスク氏の行動を賞賛し、アメリカに倣って日本も解雇規制を緩和すべきとの声も飛び交っている。

しかし、使用者が正社員をいつでも自由に解雇できる国は先進国ではアメリカ以外に存在しない。ヨーロッパや日本をはじめとする主要先進国には「正当な理由なき解雇は無効」とする解雇規制があり、原則解雇自由のアメリカは唯一の例外といってよい。ただしそのアメリカでも労働組合との間で「解雇には正当な理由が必要」との「労働協約」を結んでいる場合、苦情仲裁制度に申し立て、正当な理由がないと判断されると元の職場に戻れる。

ツイッター側も訴訟回避の策を講じている

もう1つ、アメリカには「米労働者調整・再訓練予告法」(WARN法)によって大量解雇を行う場合は、60日前までに労働者に通知することを使用者に義務づけている。違反すると予告期間に足りない分の賃金を請求することができる。

実はツイッター社を相手取りWARN法などに基づく訴訟が提起されていると、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」(2022年11月18日)が報じている。その中でニューヨーク州の労働弁護士が「マスク氏が最後通告のメールで、会社を去る社員には3カ月分の退職手当を支給すると説明している。これは訴訟を回避するためのツイッターの防御策であることは間違いない」との発言を紹介している。

マスク氏側も一応法律を考慮している。同紙によるとツイッター社の社内文書では、ニューヨーク市を除く米国の社員は2カ月分の有給での非就業期間と医療保険、さらに1カ月分の基本給が支給される。ニューヨーク市の社員は現地の法律に基づいて1カ月分の基本給以外に3カ月分の非就業期間と医療保険の付与という手厚い待遇を受けるという。またメタもアメリカ国内の社員に基本給の16週間(117日)分の退職金のほか、勤務年数に応じて金額を積み増し、日本を含むアメリカ国外の社員も現地の労働法に沿った対応をすると報じられている。

さすがにアメリカでも解雇したら無一文で放り出すことはできないのだ。