人の表情を見る欧米人、背景の変化も気づく日本人

「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、日本人はどちらかというと、森を見る文化だとされています。

ミシガン大学アナーバー校のニスベットと北海道大学の増田の研究によると、背景が変化していく様子を見るとき、欧米人は人の表情に気を取られたのに対し、日本人は背景の変化にも気がついたそうです(*4)

欧米文化圏の人は、背景よりも中心となる「人」や「物」を見る傾向が強く、アジア文化圏の人は「背景」情報にも注目するという傾向があるわけです。

この違いは、アジア文化では、もともと文脈や背景に依存する割合が強いからです。常に総合的にものごとを見るという、もともとの認識パターンの差異が影響しています。

これは文化論的にも腑に落ちるところがあります。

日本は高コンテクスト文化とされ、言葉からそれ以上の情報(文脈)を汲み取り、「あうん」の呼吸で相手とやりとりするのが最高のコミュニケーションとされます。

これに対し欧米は、低コンテクスト文化。コミュニケーションは言葉を通じて行われ、「言葉にしないと分からない、伝わらない」という文化圏です。

杉の木が生い茂る山中の風景
写真=iStock.com/shichinohe
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報酬があるとミスしやすくなる

さて、何か作業するときにも、作業そのものではないことに気を取られると、パフォーマンスは落ちる傾向があります。

北海道大学の村田の研究でも、「報酬を得ようとすると、気が急せいてエラーをしやすくなる」ことが裏付けられています(*5)

実験は3つの被験者グループに、それぞれ次の条件を付けて行われ、検証されました。

グループA)報酬なしで回答してもらう。
グループB)報酬を与える。回答が遅ければ報酬を減らす。
グループC)報酬を与える。回答が早ければ報酬を増やす。

結果、モチベーションの高いグループCだけに、早く課題を終わらせようとする傾向が見られました。

しかし同時に、間違ったときに、つまり回答が遅くなるリスクが生じたときに反応する脳波が、他のグループの被験者より大きくなりました。

人間は失敗したことによって報酬が減ることよりも、失敗しなければ報酬を増やせたのに、そのチャンスを逃したことを気にするということです。

「急いては事を仕損じる」と言いますが、仕事でも、功を焦るあまり細かいミスが目立ち、結果的に大きな失敗をしてしまうことはないでしょうか。

大きな成果を上げたいなら、むしろ「急がば回れ」がふさわしいようです。

(*4)Nisbett, R. E., & Masuda, T. (2003) . Culture and point of view. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 100, 11163‒11175.
(*5)村田明日香 (2005) . 「エラー処理に関わる動機づけ的要因の検討」. 事象関連電位をどう使うか-若手研究者からの提言(2), 日本心理学会第69 回大会・ワークショップ91 (慶応義塾大学).