スマートフォンの存在は、何かに集中しなくてはならないとき、どんな影響を与えるのか。明治大学教授の堀田秀吾さんは「最新の研究によると、スマホがそばにあるだけで、注意力が散漫になり、生産性を下げてしまうことがわかっている。集中したいときは、スマホを手に取れないところに置いたり、見えないところにしまっておくほうがいい」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

スマートフォンを持つ手元
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「そこにスマホがあるだけで」生産性が下がる

忙しい私たちの脳は、常に「マルチタスク」を強いられています。

仕事に集中しようと思うとメールやメッセージが飛び込んできたり、プライベートの時間にも、仕事の連絡が入ってきたりします。

特にスマホの存在は、私たちの脳にかなりの負担をかけています。

目の前で仕事が山積みになっていて、やらないといけないことは分かっているのに、ついダラダラとSNSを眺めたりゲームをしてしまう。メールやメッセージのやりとりも際限がない。

誰しも、心当たりがあるのではないでしょうか。

スマホゲームで息抜きするぐらいいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですね。でも、そこにあるスマホを気にするだけで、私たちのパフォーマンスは確実に低下しているのです。

テキサス大学オースティン校のウォードらは、何かに集中したり、意思決定をしたりする際に、スマホがそばにあるだけで注意力が散漫になることを実証しています(*1)

ベストは、隣の部屋に置いてしまうこと。スマホが全く手にとれない、見えない環境に置いておくのが良いということです。

また、バージニア工科大学のミスラらが行った、約100組のカップルを対象にした研究によると、テーブル上に1台のスマホがあるだけで、あるいは一方がスマホを触っているだけで、カップルのお互いに対する親近感や共感は低下するそうです(*2)

片付いた部屋と散らかった部屋、どちらが創造性が高まるか

気になる存在はスマホだけではありません。

部屋やデスクが散らかっていると気になって勉強や仕事に集中できない、とする研究もあります。

一方、「創造性を発揮するには散らかった部屋の方がいい」という報告があります。ヴォーズの研究では、48名の被験者を2つの部屋に分けました(*3)

A)書類がきっちり机の上に片付けられている「整理された部屋」
B)書類が机の上や床に散乱している「散らかった部屋」

そして、ピンポン玉の製造会社のためにピンポン玉の新しい使い方を考えるという、創造性が問われる課題を与えました。

すると、散らかった部屋の被験者の方が創造性が高くなったのです。整頓された環境にいる人は伝統や慣習にならいがちで勉強や作業に集中できる一方、散らかった環境にいる人は伝統や慣習から解き放たれるとしています。

私の大学院の指導教授は、20代半ばで世界的に名を知らしめた天才なのですが、彼のデスクも書類が山になっていました。日常的なデスクワークと、天才的なひらめきが必要とされるクリエイティブワークでは、ふさわしい環境が違うということのようです。

(*1)Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017) . Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2 (2) , 140-154.
(*2)Misra, S., Cheng, L., Genevie, J., & Yuan, M. (2014) . The iPhone Effect: The Quality of In-Person Social Interactions in the Presence of Mobile Devices. Environment and Behavior, 48, 275-298.
(*3)Vohs, K. D., Redden, J. P., & Rahinel, R. (2013) . Physical order produces healthy choices, generosity, and conventionality, whereas disorder produces creativity. Psychological Science. 24 (9) , 1860-1867.

人の表情を見る欧米人、背景の変化も気づく日本人

「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、日本人はどちらかというと、森を見る文化だとされています。

ミシガン大学アナーバー校のニスベットと北海道大学の増田の研究によると、背景が変化していく様子を見るとき、欧米人は人の表情に気を取られたのに対し、日本人は背景の変化にも気がついたそうです(*4)

欧米文化圏の人は、背景よりも中心となる「人」や「物」を見る傾向が強く、アジア文化圏の人は「背景」情報にも注目するという傾向があるわけです。

この違いは、アジア文化では、もともと文脈や背景に依存する割合が強いからです。常に総合的にものごとを見るという、もともとの認識パターンの差異が影響しています。

これは文化論的にも腑に落ちるところがあります。

日本は高コンテクスト文化とされ、言葉からそれ以上の情報(文脈)を汲み取り、「あうん」の呼吸で相手とやりとりするのが最高のコミュニケーションとされます。

これに対し欧米は、低コンテクスト文化。コミュニケーションは言葉を通じて行われ、「言葉にしないと分からない、伝わらない」という文化圏です。

杉の木が生い茂る山中の風景
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報酬があるとミスしやすくなる

さて、何か作業するときにも、作業そのものではないことに気を取られると、パフォーマンスは落ちる傾向があります。

北海道大学の村田の研究でも、「報酬を得ようとすると、気が急せいてエラーをしやすくなる」ことが裏付けられています(*5)

実験は3つの被験者グループに、それぞれ次の条件を付けて行われ、検証されました。

グループA)報酬なしで回答してもらう。
グループB)報酬を与える。回答が遅ければ報酬を減らす。
グループC)報酬を与える。回答が早ければ報酬を増やす。

結果、モチベーションの高いグループCだけに、早く課題を終わらせようとする傾向が見られました。

しかし同時に、間違ったときに、つまり回答が遅くなるリスクが生じたときに反応する脳波が、他のグループの被験者より大きくなりました。

人間は失敗したことによって報酬が減ることよりも、失敗しなければ報酬を増やせたのに、そのチャンスを逃したことを気にするということです。

「急いては事を仕損じる」と言いますが、仕事でも、功を焦るあまり細かいミスが目立ち、結果的に大きな失敗をしてしまうことはないでしょうか。

大きな成果を上げたいなら、むしろ「急がば回れ」がふさわしいようです。

(*4)Nisbett, R. E., & Masuda, T. (2003) . Culture and point of view. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 100, 11163‒11175.
(*5)村田明日香 (2005) . 「エラー処理に関わる動機づけ的要因の検討」. 事象関連電位をどう使うか-若手研究者からの提言(2), 日本心理学会第69 回大会・ワークショップ91 (慶応義塾大学).

「全力」と「いつも通り」、どちらが成果を上げられるか

「いつでも全力!」か「いつも通り、リラックス」か。

どちらが、人のポテンシャルを引き出してくれる態度なのでしょうか。

元劇団四季の主演俳優で、今は人材トレーナーをしている佐藤政樹さんが、こんなことを言っていました。

「本番だけ120%の力を出そうとしても、できるはずがない」
「練習は本番のように、本番を練習のように臨むべき。張り切って『並』なんだ」

恐ろしいほど多い数の公演を、最高のクオリティを維持しながら続けている劇団四季では、厳しい修練に基づいた高い平均値の演技を、力みすぎることなく「いつも通り」にこなしていくことが必要とされているのでしょう。

アスリートがルーティンを重んじるのも、「いつも通り」を重視しているからです。

元メジャーリーガーのイチローさんも、現役中は寝る時間、起きる時間、食事の時間はもちろん、ベンチを出てから打席でバットを構えるまでの動きなどに至るまで、常に同じでした。

ベストは「最大限マイナス数%」

筑波大学の村木と立命館大学の稲岡による研究では、努力度50%から全力(100%)まで10%ずつ変化させていって、垂直跳び、ドロップジャンプ、握力のパフォーマンスがどう変わるかを調べました(*6)

基本的に努力度が高いほどパフォーマンスが高くなる傾向はあったものの、90%で過半数にパフォーマンスのピークが見られたことから、「ベストなパフォーマンスは最大限マイナス数%で達成される」という仮説を立てました。

確かに、全力でやるより少し余裕があるくらいの方が心の落ち着きも出てきて、プレッシャーなどにも対処できそうです。

(*6)村木征人・稲岡純史 (1996) 跳躍運動における主観的 強度( 努力度合) と客観的出力との対応関係. スポーツ方法学研究, 9 (1) , 73-79.

性格は変えられるのか

性格が遺伝で決まる割合は、5~7割と言われています(専門的には「性格」「人格」「気質」などは細かく分類されますが、ここでは一般的な意味での「性格」で統一して考えていきます)。

「そんなに!」と思う人もいるかもしれませんが、見方によっては「3~5割は変わる余白がある」とも言えます。時と場合によって人の性格は変わるとする「モード性格論」は、「性格は変えられる」とする議論の1つの裏付けといえるでしょう。

髪型が変わると性格も変わる

「ちょっとしたことで人の性格など変わる」という説なら他にもあります。スタンフォード大学のベルミとニールの研究では、見た目に自信を持つと行動が変わることが実証されています(*7)。好きな髪型に変えるだけでも性格は変わるのです。

例えば、金髪にすると大胆になり、モヒカンやリーゼントにすれば尖った性格に。

その髪型をしている人がしそうな行動をとれるようになるということです。

顔のパーツや背格好は無理でも、髪型なら簡単に変えられます。その髪型で性格が左右されるなら、「性格は変わらない」なんて諦める必要はどこにもないはずです。

成功体験の積み重ねで「あがり症」も克服できる

あるいは、1つ「うまくいった」という体験が他のところにも伝播していき、できなかったことができるようになるというパターンがあります。

堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)
堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)

これは、ハーバード大学の行動分析学者バラス・スキナーが提唱する「スモール・ステップス」という学習理論を認知行動療法に応用したもので、実行可能な小さなプロセスをこなし成功体験を重ねることで、より大きな困難に立ち向かう方法です(*8)

これはいろんな場面にあてはまると思います。例えば、あがり症のせいで人前で発表するのが苦手という人も、まず数人の前で練習をして、「話せた」という成功体験を積むと、大勢の前でも話せるようになる。そんなケースです。

「うまくいった」という体験をすると、脳にある「報酬系」という神経のグループが刺激され、やる気が出たり幸福感を覚えたりします。それをまた味わいたくて、また別の場面でも、あがり症を克服しようというモチベーションが働くのです。

あがり症など、自分が治したい性格があるなら、あがらないでいられる場所を1つでも見つけることが突破口になるということです。

(*7)Belmi, P., & Neale, M. (2014) . Mirror, mirror on the wall, who’s the fairest of them all? Thinking that one is attractive increases the tendency to support inequality. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 124 (2) , 133–149.
(*8)Skinner, B. F. (1954) . The science of learning and the art of teaching. Harvard Educational Review, 24, 86.