母による極度の束縛
母親のうつ病と並行する重大なエピソードが、母親がサクラさんを極度に束縛したことだ。
【サクラさん】でも、私も母のこと嫌いじゃないし、何とか、元気になるようにいったらあれですけど、落ち着くようにそばにいてあげようって、そこで多分、思ってたんかなって思うんです。〔……〕お母さんと二人で私はどこにも頼らずに本当、二人きりの生活をしてきて、携帯は持たされていたんですけど、友だちと遊びに行こうものなら、200件以上電話がかかってくるんです。お母さんから。過保護なんですよ。いろんなパターンあると思うんですよ。
ネグレクトって育児放棄じゃないですか。うちのお母さんは過保護やから、支配タイプやったんで。私が見えないと発狂するんですよ。家帰ったら、たまたまロフトに住んでいたんですけど、うち。上からテレビ以外のすべての物が本当、CDの海みたいな。本当に、CDとか立てていたんですけど、ぶわあってなっていて。
買ってもらった自分の財産みたいなのを、帰ったら、ぼろぼろ、ポスターびりびり、でも、泣くじゃないですか、私が「やめてよ、なんでそんなことするの」、自分の大事な物を壊されて、「なんでー」って言ったら、「あんたが私、大事にせえへんからや」って言って、お母さんは苦しくて泣いているのに、なんでサクラはそんなしっかりしてんねん」と。
「それが許せない、あんたは子どもじゃない」って言って。
母のことは嫌いじゃないけど…母親の束縛への複雑な思い
サクラさんは「でも、私も母のこと嫌いじゃないし」と母親へのポジティブな思いを語ってから、しんどい思いを語り始めたのだった。自ら母親のもとに居ようという決意が想起されるのだが、そのまま母親によって束縛される様子が続いて語られる。このことはサクラさんの意思と母親の束縛の屈折したつながりを暗示する。
1970年東京都生まれ。2000年、パリ第7大学で博士号取得(基礎精神病理学・精神分析学)。13年、第10回日本学術振興会賞。専門は現象学。著書に『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』(講談社選書メチエ)、『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』(医学書院)、『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』(世界思想社)、『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(青土社)、『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』(中公新書)など多数。