「死ぬように寝たい」から「死にたい」へ

【サクラさん】今までは「死ぬように寝たい」って言っていた話が、今度は「死にたい」に変わっていって。〔……〕〔祖母は〕本当、生死をさまよったけど、結局、命を取りとめてしまって、半身不随で言葉も話せる〔かというと〕、ほとんど話せない、痴呆も残って、生かされている状態。でも、母にとったら、生きててくれてよかった。

だけど、本来の自分の知っているお母さん〔祖母〕の姿ないから、すごい罪を感じたと思うんです。そこから、〔私の〕お母さんが「ごめんなさい」、が始まって、「私なんてもう死んでしまいたい」と。〔……〕それこそ「あんたも殺して、私も死んでやる」とか、包丁を本当に。包丁を私に突き立てて、分かっているんですよ、殺す気なんてないのは。でも、怖いじゃないですか。大興奮しているし。「あんたも殺して、私も死ぬ」言うて。ぶつけられない気持ちで壁にばあって包丁刺して。

床に座り込み、頭をかきむしる女性
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適切なSOSを適切な相手に出せない母親

祖母が倒れて「生かされている状態」で寝たきりになったときに、母の希死念慮が始まる。「死ぬように寝れた」が、「今までは『死ぬように寝たい』」へと変わり、さらに「私なんてもう死んでしまいたい」に変化する。母親は祖母に対して「ごめんなさい」という罪悪感を持っている。不慮の病の介護者になることは偶然の出来事であるのにもかかわらず罪悪感を持つ。そしてこの罪悪感とリンクした仕方で母親はうつになり、サクラさんへと影響が出るのだ。

「ぶつけられない気持ち」がおそらく大事なポイントで、一見すると母親はサクラさんに「ぶつけ」ているように見えるのだが、サクラさんが悪いわけではないのは明らかだ。適切なSOSを適切な相手に発することができないままに爆発するあいまいな感情が、このあとも登場する。母親は困難をはっきり言葉で表すことができなかったようだ。そのことが薬の過量服薬や包丁を振り回すような行動化(言葉で表現できない怒りや不安を乱雑な動作で表出すること)につながっているようにみえる。次の引用ではそのことを「発狂する」と表現している。