「8番キャッチャー代表」が示すもの
日本維新の会の代表選が8月27日に行われ、新代表に馬場伸幸氏が選ばれた。新代表の就任記者会見で、こんな場面があった。「馬場カラーは『松井(一郎前代表)カラー』と言ってもいいのか」という記者の質問に対し、馬場氏はこう答えたのだ。
「松井ピッチャーの球を受けることを専門にやってきた。馬場カラーとは何か、と言われても『8番キャッチャー』としか言いようがない」
筆者は軽い驚きを覚えた。代表として最初の記者会見での言葉がこれなのか。
自らの意思で「松井路線を継承する」までなら、まだわかる。でも「8番キャッチャー」とは何だろう。代表になっても、前任者たる松井氏の隠然たる指示をいちいち受け取っては、その意のままに動く、ということなのか。
実際、馬場氏はその後、松井氏に顧問就任を要請。松井氏は要請を受ける考えを示した。松井氏は結局、表の代表から「裏」に潜っただけ。見事な「傀儡」の誕生だ。
傀儡政権は過去にも存在した
こういう政党の代表は、確かに他党にも存在した。55年体制下の自民党の中曽根政権も、初期には背後にいる田中角栄元首相の存在感が大きく「田中曽根政権」とやゆされたし、現在の岸田文雄首相も、亡くなる前の安倍晋三元首相の影響を陰に陽に受け続け、「岸田カラー」を打ち出しそうになるたびに、いつの間にか「安倍色」に塗りつぶされていくのを、今も目の当たりにしている。
しかし、就任早々こうもあけすけに、自分が松井氏の傀儡であることを明言してしまう代表は、さすがに過去にもなかなかいなかったのではないか。
結党10年にして初めてとなる維新の代表選は、これまで大阪の首長が国政政党の代表を務めてきたいびつな政党のかたちを改め、代表を国会議員にすることで「大阪の地域政党」から脱却し、真の「全国政党」への脱皮を図る姿を国民にアピールする絶好の機会となるはずだった。だが、代表選の主役は結局、松井氏。こんな代表選をやってしまったことで、維新はみすみす大事な機会を無駄にしてしまったと思う。