弱くて守ってもらえる女に“できる女”は負けるのか

——頑張って残業する“強い”押尾は二谷に気があって一緒にご飯を食べに行く関係になっていましたが、女性としては選ばれなかったので、“弱い”芦川に負けたということに?

【高瀬】押尾は二谷のような男性に選ばれなくてよかったと思いますよ(笑)。ちゃんとお互いに尊敬できて対等な関係をつくれる別のパートナーを捜したほうがいい。この会社の上司たちも芦川をかばう一方だったので、押尾が最後に下した決断も正解だったと思います。

——ここに出てくる男性の上司たちも古い体質の人が多いですね。男性社員が芦川の飲んだペットボトルを勝手に口にし“間接キス”してしまうというセクハラも描かれています。

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)

【高瀬】それも私が直接見たわけではないのですが、世間ではそういうこともあるらしいです。私が社会人になった12年前は、同級生たちが「早く結婚したほうがいいよ」と言われるなんて話はよく聞きましたし、自分たちが20代前半の頃はそういった発言に言い返せなかったんですよね。現在は少し改善されたとはいえ、まだまだセクハラはなくなっていないと思います。私も34歳になり経験を積んだので、自分より若い人がそういう目に遭っている場合は、「そういうことは言わないほうがいいですよ」と横から言うようにしています。

——高瀬さんが前に書かれた2作はまた違う題材でしたが、本作の会社員生活の描写がとても面白かったので、また会社の話を書いてもらえたらうれしいです。

【高瀬】ありがとうございます。次の作品は職場を舞台にするかはわかりませんが、世の中に会社員として働いている人は大勢いるので、登場人物が会社員という設定は今後も出てくると思います。「この人の会社はどんなところなのかな」ということを考えながら、これからも書いていきたいです。

構成=小田慶子

高瀬 隼子(たかせ・じゅんこ)
作家

1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年、『犬のかたちをしているもの』(集英社)で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。第2作『水たまりで息をする』(集英社)で165回芥川賞候補に。2022年、『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川賞を受賞。他の著書に『いい子のあくび』(集英社)など。