50歳で職種変更、初めての単身赴任

そして50歳になったとき、山本さんに大きな転機が訪れる。支社長から、総合キャリア職員への職種変更を打診されたのだ。これまでと違って全国転勤もある職種。家族はもちろん慣れ親しんだメンバーや、自身の顧客と離れる可能性もあり、山本さんは悩み抜いた。

尊敬する先輩支部長に相談したところ、「以前に、この仕事のイメージを変えたいって言ってたよね。私も同じ」と前置きしたうえで、その願いを実現する機会を会社がつくってくれたのだから、この仕事の良さをもっと伝えるためにも話を受けてはどうか、という言葉に胸を打たれた。

父親にも相談すると、そんな話をくれるなんて懐の大きい会社だから感謝して受けるようにと言われた。続けて「人生、大したことはない。目の前のことを一生懸命やりなさい」と。

「2人の言葉に背中を押されて、自信はありませんでしたが話を受けて東京本社へ異動しました。あの言葉がなかったら、今も愛知で営業職を続けていたと思います」

職種変更と異動を受ければ単身赴任にならざるを得なかったが、子育てはひと段落しており、夫も「君がやりたいことを止めたくないから」と理解を示してくれた。こうして、山本さんは50歳で初めて単身赴任することになった。

東京で暮らすのも初めてなら、与えられた仕事も営業とはまったく勝手が違う「育成担当部長」。初めてずくめの再出発に不安でいっぱいだったが、営業職出身者は仕事ができないと思われてはいけないと、自分なりに必死でがんばったという。

面談中に男性部下が落涙…

そのがんばりが認められたのか、翌年から数年ごとに昇格と転勤が続く。三重県で営業部長、山梨県で山梨支社長、愛知県で名古屋支社長を務めた。環境や業務が変わるたび不安やプレッシャーを感じたが、目の前にいる人を応援したいという思いが支えになった。

「初めて総合職の男性部下を持ったときは、私じゃ説得力がないかも、と身構えてしまいました。でも、話を聞いてみたら抱えている悩みや苦しみは私と同じ。面談で、業績や家族に関する悩みを話すうちに涙をこぼした男性もいて、『やっぱり人は人なんだな』と改めて思いました」