「善意にお任せ」だったが女性候補者3割超に

日本でも2003年に、「2020年までに社会のあらゆる意思決定の場における女性の比率を30%にする」という目標を掲げていた。しかしこの、いわゆる「202030」は達成できず、政府はその原因に対する精査もせず、「2025年までに国政選挙の候補者の女性割合を35%にする」という新しい目標を立てた。目標を立てているだけでそれを強制する方法は設けず、各政党の善意にお任せ状態である。

それでも、先日行われた参議院選挙では、各政党が世論に後押しされる形で女性候補者を増やす努力をした結果、女性候補者比率が初めて3割を超えた33%となった。女性候補者を50%にする目標を掲げた立憲民主党が先導的にその目標を達成したほか、自民党も最終的に比例代表の女性候補者比率を3割に上げることに成功した。

参議院選挙は全国規模の組織の推薦をもらえないと、著名人でもない新人が全国比例区で当選することはほぼ不可能である。そのため、女性候補者が増えただけで直ちに女性議員が増えることにはならない。

しかし、まずは候補者を増やす努力を続けることで、政治を志す女性が増え、次の選挙にはもっと有能な人材が政治に参入することが期待できる。有権者にとっても女性候補者が増えると自分たちを代表してくれる人を選べる選択肢が増え、それ自体が選挙や政治に対する市民の関心を高めることになる。

「女性議員が増えると男性議員の関心にも変化」

今回の参議院選挙ではこれまででもっとも多くの女性議員が当選を果たした。人数的には自民党がもっとも多い13名、その次が立憲民主党で、9名が当選した。

2019年の参院選の当選者を含めると、野党の女性議員は新人が多い。安全保障やジェンダー問題をめぐる政党間の違いが際立つ現状の中で、女性議員だからといって同じ立場にあるわけではないだろう。しかし、参議院は4人に1人が女性となった。既存政治に失望した市民たちがこれまでとは異なる政治を望んだ結果ではないだろうか。

女性議員には、とりわけ、社会のマジョリティーとは異なる意見、生活者の視点、政治に届いてない小さな声を代弁し、弱い立場のゆえに周辺化されている人々の味方になってほしい。「女性議員が増えると男性議員の政策関心にも変化が生じる」との研究もあるように、女性議員は政治のチェンジ・メーカーになれる。

これからの3年間は国政選挙がなく、憲法議論を含めて日本の未来を方向づける重要な議論が行われる見込みだ。女性議員が増えたことで、人権や平和がしっかりと守られて、誰もが安心して幸せに暮らせる社会をつくるために、政治が積極的な役割を果たすことを期待したい。

申 琪榮(しん・きよん)
お茶の水女子大学 ジェンダー研究所 教授

米国ワシントン大学政治学科で博士号を取得し、ジェンダーと政治、女性運動、ジェンダー政策などを研究。学術誌『ジェンダー研究』編集長。共著『ジェンダー・クオータ:世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)など。女性議員を養成する「パリテ・アカデミー」共同代表。