今月発表された「ジェンダーギャップ報告書」で、日本は146カ国中116位だった。日本の男女格差は、なぜ一向に改善されないのだろうか。政治とジェンダーに詳しい、お茶の水女子大学教授のしん琪榮きよんさんは「日本の男女格差が大きいままなのは、『諸外国が頑張っているから相対的に遅れて見えるだけ』ではなく、この十数年間ジェンダーギャップを放置してきた結果」だという――。
記念撮影に臨む岸田文雄首相と第2次岸田内閣の閣僚。2021年10月4日撮影
写真=EPA/時事通信フォト
記念撮影に臨む岸田文雄首相と第2次岸田内閣の閣僚。2021年10月4日撮影

116位、先進国で最下位

世界経済フォーラム(World Economic Forum)は7月13日に2022年版「ジェンダーギャップ報告書」を公表した。報告書は、各国の経済、教育、健康、政治の4分野における男女格差を、複数の指数で表し、各分野別、および4分野の総合点で国別順位を出している。

今年も1位はアイスランドだったが、日本は分析対象国146カ国中116位だった。G7で最下位にあるのは変わりなく、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国の中でも、124位のトルコを除くともっとも低い。さらに今年は、去年まで日本より順位が低かったバヌアツ共和国が日本より順位を上げたため、東アジア・太平洋地域でも最下位の19位となった(去年日本より下位にあったパプアニューギニアは、今回の評価に参加しなかった)。アジア・太平洋地域で政治・経済的リーダーの役割が期待される日本にとって、とても残念な結果である。

対象国数が近い2015年より大幅にダウン

「ジェンダーギャップ報告書」は2006年から毎年発表されているため、毎年の変化のみならず、この15年の変化も考察することができる。ただし、毎年分析対象国の数が少し変動するので、順位だけでなく、指数のスコアの変化から男女格差が改善されているかを評価した方がよい。

例えば、日本の順位は昨年156カ国中120位だったため、一見今年は順位(116位)が上がったかのように見えるが、今年は対象国が10カ国も減ったので、相対的な順位が上がったとは言えない。

分析対象国数が145カ国で、今回と近かった2015年の日本の順位は101位と、今年よりはるかに高かった。

もちろん、ジェンダーギャップ指数だけで男女格差を十分に表すことはできない。女性の間の格差や性的マイノリティーの状況はこの指数だけでは分からないし、性別以外の属性もクロスして分析しなければ、社会のあらゆる格差を明らかにすることはできない。ジェンダーギャップ指数は、社会に存在する不平等のあり方を分かりやすく表す手法のうちの一つであることを留意したうえで、有効に活用することが大事だ。

それでは、15年間のジェンダーギャップ指数から何が見えてくるだろうか。世界と日本の15年間の変化を手がかりに日本の課題を考えてみたい。

「他国が頑張っているから遅れて見える」わけではなかった

ジェンダーギャップ指数は男女のギャップを0から1の数値で示しており、最高スコアである1は男女格差がない平等な状態(パリティ)を示す。反対にスコアが0に近くなるほど、男女のギャップが大きいことを意味する。

13年連続1位であるアイスランドと日本の総合スコアを比較してみると、アイスランドが0.908と、ジェンダー平等が90%程まで達成されているのに対して、日本は0.650にとどまっており、ジェンダー平等から程遠い状況がうかがえる。

日本のジェンダー格差は今年に限ったことではない。今年の総合スコアは0.650であるが、これは昨年の0.655を下回る。

また、ジェンダーギャップ指数が初めて発表された2006年からの長期的な変化を見ても、日本の総合点はほとんど変わっていない。2006年は0.645で、2015年にかろうじて0.670まで上がったものの、その後はスコアを落とし、挙げ句の果てに今年は2010年(0.652)以前の水準にまで後退した。

つまり、男女格差が大きいだけでなく、長期的にみても改善の傾向がないのであり、それこそが問題なのである。

この数値から言えるのは、これまで言い古されてきた「諸外国が頑張っているから相対的に日本が遅れて見えるだけ」というのは言い訳に過ぎず、「日本はこの十数年間ジェンダーギャップを放置してきた」ということである。

コロナでさらに開いた格差

分野別の数値からはさらに詳細が見えてくる。

経済と政治分野で男女差は一貫してとても大きい。とりわけ、昨年(2021年)と比べると、今年は経済分野で121位まで順位を下げて(昨年117位)おり、スコアも0.604から0.564に下がった。経済分野の男女格差が開いたのは、女性の労働参加率の下落幅が大きかったことが響いた。

男女共同参画白書」でも、コロナ禍の影響には男女差があると指摘されている。特に小、中、高校の一斉休校があった2020年3月から4月には、男女ともに就業者数が大幅に減ったが、女性の就業者の減少幅は男性より1.8倍も大きかった。

その後も、女性の就業率はなかなか回復せず、回復の速度も男性より遅い。元々貧困率が高くケア責任も担っているシングルマザーたちは、特に苦しんだ。コロナ禍は「女性不況」とも言われるほど、女性に大きなダメージを与えたが、それに対する政府の対策はジェンダー格差を十分に考慮していたとは言えない。定額給付金は世帯主にまとめて支給され、雇用維持のための各種支援も企業を通じて行われた。コロナ禍以前から存在していたケア負担や不安定な労働条件が原因で労働市場から撤退せざるを得なかった女性たちに、スピード感を持って的確な支援を届けることができなかったのである。

スーツ姿でコースを走るビジネスマン
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政治では「87点のアイスランド、6点の日本」

政治はどうだろうか。政治分野のジェンダーギャップ指数として使われるのは、下院(衆議院)議員の男女比、閣僚の男女比、そして過去50年間の国のトップリーダーを務めた者の男女別の合計年数である。

今年の日本の順位は139位(2021年は147位)に上がったものの、日本の下には7カ国しかない。政治分野のスコアは0.061で、世界の平均スコア0.22の4分の1弱程度だ。

政治は諸外国でもいまだに男女差がもっとも大きい分野であるが、逆に最も大きな改善が見られる分野でもある。例えば、アイスランドは政治分野のスコアが0.874と、経済分野より男女差が少ない。100点満点で考えると、日本が6点であるのに対して、アイスランドは87点のような大差である。

そのアイスランドでも、2006年には総合順位が4位(0.7813)で、政治分野のジェンダーギャップ指数も0.4560と、今よりはるかに悪かった。それがこの15年間でジェンダーギャップを劇的に縮小させ、世界でもっともジェンダー平等に近い国となったのである。国会議員や閣僚の女性比率は4割以上、女性が国のトップリーダーを務めた期間も、男性とほぼ同じ年数である。アイスランドが過去13年間、総合スコア1位であり続けたのは、政治分野での進展がその背景にあると言えよう。

政治で挽回した韓国

日本と近い国としては、韓国もジェンダーギャップを改善させてきた国の一つである。2006年には総合点が日本より低く、政治分野のスコアは0.067と日本と同じだったが、各分野のスコアを少しずつ上げて、今年は総合スコアが0.689で99位に上がった。とりわけ、政治分野が0.212(72位)と大幅に改善されたことが日本を抜いた主要因である。

これらの国では、経済危機に陥ったり、政権の支持率が下がったりした時に、政治のあり方が厳しい目で議論され、その対策がとられた共通点がある。意思決定の場が閉鎖的で多様性に欠けていると、民意が正しく反映されず、しばしば社会経済的危機を招きかねないし、政策の失敗にも気付きにくい。そのような反省から政治のあり方を変えてきたのが、ジェンダーギャップの改善につながった。

「善意にお任せ」だったが女性候補者3割超に

日本でも2003年に、「2020年までに社会のあらゆる意思決定の場における女性の比率を30%にする」という目標を掲げていた。しかしこの、いわゆる「202030」は達成できず、政府はその原因に対する精査もせず、「2025年までに国政選挙の候補者の女性割合を35%にする」という新しい目標を立てた。目標を立てているだけでそれを強制する方法は設けず、各政党の善意にお任せ状態である。

それでも、先日行われた参議院選挙では、各政党が世論に後押しされる形で女性候補者を増やす努力をした結果、女性候補者比率が初めて3割を超えた33%となった。女性候補者を50%にする目標を掲げた立憲民主党が先導的にその目標を達成したほか、自民党も最終的に比例代表の女性候補者比率を3割に上げることに成功した。

参議院選挙は全国規模の組織の推薦をもらえないと、著名人でもない新人が全国比例区で当選することはほぼ不可能である。そのため、女性候補者が増えただけで直ちに女性議員が増えることにはならない。

しかし、まずは候補者を増やす努力を続けることで、政治を志す女性が増え、次の選挙にはもっと有能な人材が政治に参入することが期待できる。有権者にとっても女性候補者が増えると自分たちを代表してくれる人を選べる選択肢が増え、それ自体が選挙や政治に対する市民の関心を高めることになる。

「女性議員が増えると男性議員の関心にも変化」

今回の参議院選挙ではこれまででもっとも多くの女性議員が当選を果たした。人数的には自民党がもっとも多い13名、その次が立憲民主党で、9名が当選した。

2019年の参院選の当選者を含めると、野党の女性議員は新人が多い。安全保障やジェンダー問題をめぐる政党間の違いが際立つ現状の中で、女性議員だからといって同じ立場にあるわけではないだろう。しかし、参議院は4人に1人が女性となった。既存政治に失望した市民たちがこれまでとは異なる政治を望んだ結果ではないだろうか。

女性議員には、とりわけ、社会のマジョリティーとは異なる意見、生活者の視点、政治に届いてない小さな声を代弁し、弱い立場のゆえに周辺化されている人々の味方になってほしい。「女性議員が増えると男性議員の政策関心にも変化が生じる」との研究もあるように、女性議員は政治のチェンジ・メーカーになれる。

これからの3年間は国政選挙がなく、憲法議論を含めて日本の未来を方向づける重要な議論が行われる見込みだ。女性議員が増えたことで、人権や平和がしっかりと守られて、誰もが安心して幸せに暮らせる社会をつくるために、政治が積極的な役割を果たすことを期待したい。