孤独は私たちの体や心にどのような影響を及ぼすのか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「孤独はうつのリスクを高めるだけでなく、喫煙に匹敵するほどに心筋梗塞や脳梗塞の死亡リスクを高める」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

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孤独がうつのリスクを高める

孤独がうつのリスクを高めると聞いても、誰も驚かないだろう。しかし、うつと孤独がどれほど密接に関係しているかはあまり知られていない。

調査によれば、うつの人が孤独を感じている確率は10倍だった。精神科医として働き始めて数カ月の頃に、20代だろうと、中年だろうと、高齢者だろうと、驚くほど多くの患者が人とあまり会わない生活をしていて、孤独を感じていることに驚かされた。長いこと孤独だった人もいるが、孤独がうつと同時期に始まった患者も多かった。

そして私は疑問に思った。うつは孤独のせいなのか、それともうつになったから引きこもって孤独になるのだろうか。うつと孤独、一体どちらが先なのだろうか。

5人に1人が「孤独が原因でうつに」

オーストラリアでは平均年齢50歳の約5000人を調査する研究が行われ、精神状態や属している社交グループの数など、多数の質問に答えてもらった。社交グループとは非営利団体、政治団体や宗教団体など、共通の関心事を一緒に楽しむ人の集まりだ。具体的には読書会にコーラス、料理教室、手芸グループ、スポーツチーム、教会活動、犬の愛好会、ブリッジ、ミニサッカーなどだった。

2年後に再び質問に答えてもらうと、最初の調査でうつの兆候があった人たちの一部はそれがなくなっていた。症状が消えた人たちは前の調査からの2年間、高い確率で1つないし複数の社交グループに属していた。

孤独を打破しようとして社交グループに参加すると、うつから回復する確率が上がるようだ。つまりたいていの場合、もちろん必ずではないが、人はまず孤独になり、それからうつになるということを示唆している。だから孤独を打破できればうつが治る可能性が高まるのだ。

この調査で興味深いのはうつへの効果が大きかったことと、所属する社交グループの数が多いほど効果があったという点だ。1グループのみに属した人はうつになる可能性が24%低く、3グループに属した人は63%もリスクが下がった。

そんな数字を見ると、現代の孤立や孤独がうつの大きな要因ではないかと疑ってしまう。そしてまさにそうだと示す点が多くあるのだ。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者たちが4200人を12年間追った大規模な調査では、50歳以上のうつの人のうち20%が孤独によるものだということが判明している。つまり5人に1人が孤独が原因でうつになったのだ。