シリコンバレーの技術者たちの後悔

【斎藤】今の若い世代は、望むと望まざるとにかかわらず、FacebookやInstagramなどで常に他人との比較の中で生きています。いまさら日常生活からスマホやデジタル機器をなくすことも難しいですしね。

【堤】ええ、なくすどころか技術の進化で、デジタル機器は近い将来彼らの身体に埋め込まれるようになるでしょう。問題はデジタル機器そのものではなく、いかにその全体像を把握して主体的に使うかどうか、の方なのです。幸いSNSが若者のメンタルに与える危険については世界でもかなりデータが出てきているので、それだけでも知っていると知らないのとでは、大きく違ってくるでしょう。

一昨年アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』(新潮社)がベストセラーになりましたが、そのずっと前から、シリコンバレーの技術者からは「とんでもないものを作ってしまった」と懺悔の声が上がっていました。彼らは自分の子どもはデジタルフリーで育てています。

あれはれっきとした依存症ビジネスなので、大人でも自分の意思だけでやめるのは難しいですよ。実は私も、散々このテーマを取材してる癖に、全然人のことは言えず……執筆をしていたはずが、気がつくといつの間にか猫グッズのサイトに……(笑)

斎藤幸平氏×堤未果氏
撮影=増田岳二

中国や韓国で進む「スマホ脳」対策

【斎藤】まぁその点は、僕の脳みそも同じです(笑)。Twitterとかよく見ちゃうので、深く反省します……。実際、デジタルは中毒性と非常に親和性が高く、人間の注意、意欲、集中力をとことん吸い尽くすように緻密に計算されています。

「資本主義」や「民主主義」が大きな壁にぶち当たり、これから人類がどういう道を模索していけばいいのかを考えねばならない時代に、おりしもスマホ脳的現象で、「考える力」が奪われてしまっているのは、悲劇的です。

【堤】ええ、本当に。「考える力」をこれ以上奪われっぱなしにしないために、この悲劇的状況を私たち大人が重く受け止めて、一刻も早く行動を起こさないといけません。

新しい技術についてはいつも、時差があるものです。開発者側の語る利便性や夢の未来のような理想が先に拡散されて、リスクが問題になるのはずっと後ですよね。ハンセン博士の「スマホ脳」が騒がれたのも、日本にiPadが上陸してから10年も経ってからでしょう? 開発者のジョブズは2010年のインタビューで、自分の子にタブレットを持たせない、とはっきり言っていたのに。

でも、Z世代や子供たちに関しては10年後20年後に出る影響が、彼らの人生だけじゃなく国の未来も変えてしまうので、そうも言っていられません。同じアジアでも中国や韓国では、すでに国を挙げて対策を打っています。

【斎藤】一方で、まだ私たちの考える力がすべて奪われてしまっているわけではないと信じています。