女性の無償労働の上に成立するキャリア
そのような無償労働は女性の仕事であるべきだ、それが良識だとする社会的な圧力は、イスラム諸国や、インドを含むアジア諸国でことに強い。したがって世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数ランキングにはイスラム、アジア諸国の「劣等生ぶり」が正直に反映されているのだが、その中でも「先進国でございます」と澄ました顔をしている日本の順位がひときわ低くあり続けるのだから、病状のひどさもわかるというものだ。
先ほどの「クソリプ」にあった「そもそも女性がゆるい職業や働き方を望むからでしょ?」との言がどれほど「世間知らず」であるか、いま彼が恥の感情に全身さいなまれて泣いていることを心底から願う。立派な会社名や肩書(雇われているあなたにとっては一時的に与えられているものにすぎないのに)をドヤ顔で誇る男性が、そもそもフルタイムで有給の仕事についていられるのは、人生や家族につきものの当然のいろいろを誰かにやってもらっているからである。
自分が汚したトイレを掃除しているのは誰か
子育て専業主婦であったボトムラインからこの立場へふらりとやってきた、得体も知れず無礼な物書きの私は、偉いらしい男性たちが「僕ってこんなに偉いんですよ」という顔をするたびに、腹の中ではこう思っている。
「でもアンタが今履いてるパンツって、奥さんだかオカンだかが洗って干して畳んでしまってくれたのを引っ張り出して履いてきたんやろ? アンタが今朝下手くそに飛び散らかしたトイレも、今ごろ奥さんだかオカンだかがきれいにしてくれてるんやろ? アンタの子どもや親のおむつは、奥さんだかオカンだかが毎度替えてきれいに拭いて、捨てるとこまできっちりやってくれはるんやろ? そんで家帰ったらご飯までできてんの? それで偉くもなかったら、アンタ何してんねんて話やなぁ、頑張りや~」
自分のパンツを自分で洗わない人間、自分の汚したトイレを自分で掃除しない人間の自慢話を、私はいいとこ半分も聞いていない。日本の男女賃金格差に入ったメスが、彼らの狭く濁った視界をもスカッと切り開くことを大いに期待している。
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。