子育てにおける年寄りの役割

そこで年寄りの役割が大切なものとして浮かび上がります。「おばあさん仮説」という言葉をお聞きになったことがおありでしょうか。生きものは子孫を残すことが大切なのだとしたら、閉経後の女性は不要ということになりそうですが、そうではないという考え方です。経験豊富な年寄りが子育てを引き受けることが、次の赤ちゃん誕生につながり(ゴリラやチンパンジーに年子はいません)、そこで人類は単に継続するだけでなく繁栄の道を歩いてきたというわけです。

共同保育とそこでの年寄りの役割が基本にあることを忘れずに、虐待社会はなしにしなければいけません。進んで手を貸しましょう。もっとも、今は、私たち年寄りにもやりたいことがたくさんありますから、ゴルフや俳句も、仲間とのおしゃべりも楽しみながら、孫たちが元気に育つお手伝いもしていくのが、人間としての生き方でしょう。

言い方は少々大げさになりましたが、私たち人間が生きものであることを忘れずに、次世代、さらには次の世代へと幸せが続くよう、お手伝いしていきましょう。

中村 桂子(なかむら・けいこ)
JT生命誌研究館名誉館長

1936年東京生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、独自の「生命誌」を構想。93年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。