10分と言ったら10分で終わる

部下の話を聞く姿勢がととのったら、いよいよ話し合いを始めます。そのときに大切なのは座る位置。部下は、上司から対面で「今の不安を聞かせてくれ」と言われると、プレッシャーと緊張で、何か白状させられる気分になります。しかし横に座り、お互いがよくなろう、あなたの味方です、というメッセージを伝えられたら、部下は安心して話ができるでしょうね。理想は車に一緒に乗って、同じ遠くの景色を見ることかもしれません。

「どんなに話が盛り上がっても決めた時間で切り上げることが大事」と話す伊藤東凌さん。
撮影=水野真澄
「どんなに話が盛り上がっても決めた時間で切り上げることが大事」と話す伊藤東凌さん。

また具体的に話し合うときも「一緒に考える」スタンスを伝えることは重要です。君の問題点を言いなさい、それを分析してこっちもアドバイスするから、では絶対にダメ。部下自身も頑張れていないことは、おそらくわかっています。それをこちらも理解したうえで、では「どんな不安がなくなって、どんなサポートがあれば、やりやすくなるんだろうね、僕たちは」というスタンスが正解です。同じ立場で、肩を並べて考えるという態度を忘れないでください。

そんなふうに話がどんどん深まり、10分で終わらないこともよくあります。しかし、これは10分でやめたほうがいい。もっと話そうと時間を延長するのは、あまりよくありません。「今日の10分で、かなりいいところまで話せた。これからまた話せば、具体的な解決策も出てきそうだから、また次回、時間をとらない?」とやったほうがいいですね。

というのは1回目に10分と言ったのに、話が盛り上がって1時間話したとします。しかし2回目に、また10分と言って、きちんと10分で終わると、相手からすると物足りなくなる。1回目に1時間延長したことで、相手にあの話はよかったという記憶を残し、2回目にふつうにやるとサボっているように見える。部下からすると、上司の情熱が冷めたように思えるのです。ですから最初に10分といったら、きっちり10分で区切ったほうがよいのです。

聞くプロが投げかける最強の質問

さらに聞くプロフェッショナルであれば、10分話し合ったあとに「今日は何%話せた?」と部下に聞いてみる。「40%ぐらいしゃべれました」と答えれば、「じゃあ、来週にでも、また10分時間をとって、その40%の続きをしゃべろうよ」と言う。そうすれば部下のほうも、やりましょうと乗ってきます。

両足院・閼伽井庭
撮影=水野真澄

2回目の10分では、1回目に出てきた部下の何気ない話、たとえば「家をリフォームしている」「ペットを飼い始めた」といった話を拾い、「あの工事、進んでいるの?」「ペットとの生活はどう?」といったコメントを、適切なタイミングではさみこみましょう。そうすると部下は上司が自分の話をちゃんと覚えてくれていて、自分に関心が向いていると思いますので、信頼関係はどんどん変わっていきます。

ですから上司は、2回目の10分までに、1回目の話をきちんと整理して、準備をしておかなければいけないのです。

そこまでして初めて、この人の言うことなら聞きたいと思われる上司に変わってくる。反対に言えば、そこまでしないと、人はそうそう人の話を聞かないということです。

伊藤 東凌(いとう・とうりょう)
両足院 副住職

京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。