指示や方針にしたがってくれない部下に、どう対応したらいいのか。両足院副住職の伊藤東凌さんは「まずこのように悩む人に知ってほしいことは『人は人の言うことを聞かない』という大前提です」という――。

人は人の言うことを聞かない

「部下が言うことを聞いてくれない」「こちらの方針に従ってくれない」……、上司の立場にいる人から、よく聞く悩みです。おそらく上司自身、自分の部下時代に上司の言うことを聞いていたからこそ、上司になった今、部下は当然自分の言うことを聞いてくれるだろうと思うのでしょう。自分は上司の言うことを一聞けば、十理解できたから、部下もこの一言を言えば伝わるだろうと。

両足院 副住職 伊藤東凌さん
撮影=水野真澄
両足院 副住職 伊藤東凌さん

しかし人が人の話を理解するのは難しいですし、まして何かをしてほしいと人から強めに指示されると、自分の選択肢を奪われてしまうのはないかと拒絶反応が起こるものです。

ですから、まずこのように悩む人に知ってほしいことは「人は人の言うことを聞かない」という大前提です。

そもそも部下の言うことを聞いていたか

部下が話を聞いてくれない事例は、さまざまにあります。たとえば上司が、部下に権限移譲をして、各人が自立したチームを目指そうとしているのに、部下は自分で考えることを放棄してしまう。いわゆる指示待ちです。

反対に、ある程度は自分で自由にやってもいいけれど、行動に移すまえに確認して進めようというルールがあるにもかかわらず、それを聞かず勝手に動いてしまう。前者の指示待ちタイプも、後者の暴走タイプも、上司としては困ります。

なぜ言ったことを聞いてくれないのか、方針に従ってくれないのか、もしかすると、上司自身が部下の話を聞いていないことが原因かもしれません。

プロジェクトには、たいてい期日があります。時間がないなか、上司が「とにかくアイデアを出して」「実行する前に連絡して」と部下に指示しか出していなければ、部下の本音を読みとることは難しい。

しかし、時間がない中でも「仕事の仕方で困っているところはないか」「どんなサポートがあればやりやすくなるのか」、上司がそこをちゃんと「聞く」。部下が今、何を感じて、何を考えているか、そこに少しでも聞く耳を向けると、コミュニケーションの方向が変わり、部下が心を開いて、こちらの言うことを聞いてくれる、方針に従ってくれる可能性が出てくるかもしれません。