知らないうちに自分の話す言葉が、誰かが言った言葉や表現になっていることがある。どうしたら避けられるのか。文芸評論家の三宅香帆さんは「自分の言葉のクセに気づくことが、自分オリジナルの言語化への第一歩」という――。

※本稿は、三宅香帆『伝わる言語化 自分だけの言葉で人の心を動かすトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

三宅香帆さん
撮影=小石謙太
三宅香帆さん

私たちが言語化に悩む理由

「言語化」とは、他の誰でもない自分の「感情」や「思考」を「自分の言葉で語ること」です。そんなふうに言われると、

「そんなの、みんな普通にやってることじゃないの?」
「それくらいのこと、別に特別なことでもないでしょ?」

と思うかもしれません。

でも実際には、「言語化」に悩む人はとても多い。

そんな矛盾が生まれてしまうのは、「自分オリジナルの気持ちを自分自身が納得できる言葉にする」ことが、簡単そうに見えて、実はとても難しいから。

その難しさの背景にあるのが、私たちが「他人の言葉が自分の思考に流れ込みやすい」時代を生きているという現実です。SNSやLINEなどがいつも身近にある私たちにとって、他人の言葉から距離をとることは本当に難しいです。

そもそも人間というのは、何も考えずにいると、世の中の人たちが使っている言葉を無意識のうちに真似してしまう生き物なんですね。

とはいえ、それ自体は別に悪いことではありません。見方を変えれば、人間がもつ「能力」でもあるのです。赤ちゃんが言葉を自然に覚えられるのだって、この能力があるおかげなのですから。

ただし、気をつけなくてはいけないのは、この能力があなたのオリジナリティを奪ってしまいかねないということ。「他人の言葉を真似できる力」を無意識に発揮してしまうと、借り物のような「ありきたりな言葉」でしか語れなくなってしまうんです。