脱線話をうまく引き戻すには「クッション言葉+結論催促」

では、ここから具体的に困った上司の脱線話の引き戻し方をみていきましょう。脱線話を引き戻したい時、上司であっても気心の知れた相手なら「ちょっと時間が押しているので、巻きで(短めに)お願いします!」などと冗談っぽく言ってもいいでしょう。

一方、気を遣う相手の場合に役に立つのが、柔らかい印象で脱線した話を引き戻すフレーズ「クッション言葉+結論を催促」です。

クッション言葉とは、「恐れ入ります、……」など依頼やお断り、意見・反論をする時に、きつい印象にならないように先に挿入して使う緩衝材となるフレーズです。こうしたクッション言葉の後に、「ご発言中ですが、要約させていただくと……」

「お話の途中で恐れ入りますが、今の発言の意味は○○ということでよろしいでしょうか?」と発言の要点をまとめると、柔らかい印象で結論を促すことができます。こんなふうに上司の発言を要約しながらだと、相手に不快感を与えずに、論点のズレに気づかせつつ、うまく軌道修正できます。

他にも、「興味深いお話ですが、そろそろ本題もお伺いしたいです」「そのお話は、また別の機会にお伺いするということで……」というフレーズで本題に引き戻せば、相手を嫌な気にさせず、ちょっと話しすぎたかなと気づいてもらえます。

この時に心証を悪くしない話し方のコツは、おどおどせずに朗らかなトーンで、「本当は続きを聞きたいけど、時間の都合もあるので」というニュアンスを伝えることです。

場の仕切り直しに使いたいフレーズ

自由闊達な意見交換の場面では、当然話が迷走する人は出てきますし、意見が対立して空気が険悪になることもあります。そんな時に活用したいのが、場を仕切り直すフレーズです。

・話が迷走気味な時には

「いったんここまでの発言の要点をまとめていただけますでしょうか」
「結局のところ、○○について、どうなのでしょうか?」

と、ポイントを絞って訊ねて発言を整理してもらいましょう。「理解が追いつかなくて申し訳ございません。こんな私にも分かるように教えてくださいませんか」というスタンスであれば決して失礼には当たりません。

・空気が悪くなった時には

「このあたりで一度、これまでの話を整理して方向性を確認しませんか」

と仕切り直す提案をします。もし進行役がいる場合には、その方に進行をお願いしてご自身はホワイトボードでディスカッションを整理していく書記役に回ってもいいでしょう。

こうした場を仕切るフレーズをいくつか用意しておくと、いざというときに焦りませんし、何より「臨機応変に場を回せて頼もしい!」と思われます。

ディスカッションが停滞気味な時の上級テク

進行役が全てのファシリテーションをやると、どうしても一人で頑張っている印象になります。その点、裏回し役がいると、他の人も発言しやすい空気をつくりあげる効果があります。

やや上級テクニックになりますが、ディスカッションが停滞した時にはミスリードでも構わないので、例えば「誤解を恐れずに言うと○○も選択肢のひとつだと思うんです……」「極端だけどこんな意見もありますよね……」など、あえて呼び水となる発言を積極的にするといいでしょう。

最近は、フラットに意見を交わす社内イベントを実施する企業も増えたようで、社内でのパネルディスカッションのモデレータをする人から、「話好きな役員の発言を仕切るのが難しい」とファシリテーションのコツについて相談を受けることもあります。

ぜひ上手な仕切り役で、会議の無駄な時間を省くのはもちろん、さまざまなビジネスシーンで有意義なディスカッションを支援して「○○さんがいると会議が円滑に回る」と言われるような頼りがいある存在となり、活躍の機会を増やしてください。

阿隅 和美(あすみ・かずみ)
WACHIKAコミュニケーションズ代表

青山学院大学経営学部卒業。中部日本放送アナウンサーを経て、NHK衛星放送キャスターとして、株式市況、世界のトップニュースを10年担当。20年にわたり、スポーツ、経済、情報番組に関わる。アナウンサー名は瓶子和美。現在は、TV現場で培った技術を活かし、ビジネス現場でコミュニケーション力を発揮し、成果を出す人材を育成する研修、講座、講演を行っている他、経営層・管理職、エグゼクティブリーダー向けプレゼン・スピーチのパーソナルトレーニングやコンサルティングなどを実施している。著書に『心をつかみ思わず聴きたくなる話のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『仕事ができる人の話し方』(青春出版社)があり台湾でも翻訳されている。ホームページ