リモート会議が定着したものの、最近ではまた対面の会議も増えてきました。ディスカッションは大切ですが、時間は有限。会議を脱線させる困った上司をうまく現実に戻すにはどうすればいいでしょうか。話し方コンサルタントの阿隅和美さんが会議の“裏回し”の技術を伝授します――。
ビジネスミーティング中に不満げな女性
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「また始まった」仕事の生産性を下げる上司の“脱線”

DXによる業務効率化が時代の潮流となっている一方で、ダラダラと長い会議のせいで仕事の生産性が上がらないという声は一向に減りません。

あなたの職場には、「それって今言わなくてもいいんじゃないの?」「また始まった……」というような、会議の流れを中断してしまう人や、話が長くて脱線してしまうといった困った人はいませんか。

本来であれば「それは今日の議題からずれていると思います」「今の議論には必要ないと思います」とズバッと切りたいところです。しかし、指摘しにくい企業文化であったり、気を使わなければならない上司やお客様相手だったりすると、ストレートに言えず、イライラ、悶々とする場面もあるのではないでしょうか。

そこで、今回は、トンチンカンな上司の脱線癖を一瞬で現実に戻す“とっさのひと言”をご紹介しながら、会議の上手な回し方について考えてみましょう。

トーク番組を支える「裏回し役」

会議をうまく仕切るには、ディスカッションの交通整理をするファシリテーションスキルが求められます。このスキルが必要なのは会議の進行役だけで、他の参加メンバーには不要だと思っていませんか。実は、こうした会議の場をうまく回していくスキルは、進行役だけでなく、全てのメンバーが身につけておきたいものなのです。

分かりやすくするために、テレビのトーク番組を例にとって説明します。出演者が何人もいる番組では、メイン司会者の他に「裏回し役」と呼ばれる出演者がいることがあります。

メイン司会者はまさに会議の進行役で、テーマに応じて時間配分を考えて参加者の発言を促していきます。一方、裏回し役とはテレビ用語のひとつで、司会者が振った話題を盛り上げるために出演者同士を緩やかにコントロールし、番組の進行をサポートする役割をしています。

これを会議の場面にあてはめてみると、進行役からパスを受けて、全体を見渡しながら会議の共通ゴールに向かってディスカッションをアシストしていく役割です。裏回し役が上手なタレントは、メイン司会者から信頼され、番組のキャスティングでも引き合いが強いと言われています。

会議でも、裏回し役を買って出る人はリーダーから絶大な信頼を得ていて、例えば上司が昇格する時や重要なプロジェクトを組む時には、必ず連れていきたいと思われる人です。このように会議で進行を促すとっさのひと言が言えると、一見目立ちませんが、自分の存在価値をさりげなくアピールできるのです。

進行役の脱線にうんざり

参加者がディスカッションに積極的に参加した結果、議論が白熱するのは好ましいことですし、短めの脱線話ならよい気分転換にもなります。しかし、しばしば要領を得ない発言をダラダラ続ける人、もっともらしい話でも、語調や修飾語を取り除いて事実だけにフォーカスをすると何も言っていないと同じ人、いつの間にか自分の自慢話にすり替わっている人など会議での迷惑行為のせいで、貴重な時間を浪費してしまうのはもったいないことです。

20代会社員Aさんも、無駄に長い会議にうんざりしているひとりです。うんざりしているのは毎週の定例部会。

・発言を求められて発言をすると「いや、でも〜」「いや、それは〜」と部長が必ず否定で返してくる。

・また、その場には「一言言わずにはいられない上司」が数人いて、彼らの発言で会議の進行が著しく遅れる。

・気づくと部長とその困った上司ばかり話していて、定時に終わった試しがない。自分に関係がない議題も多く、長時間拘束されることに意味があるのか疑問を感じてしまう。

・コロナ後はリモート会議だったのでカメラオフの参加で少し気楽だったが、最近対面会議に戻って結構しんどい

ということでした。

発言時間を客観的にコントロールするのは誰でも難しい

このAさんの事例のように、進行役の上司が無駄に会議を長引かせている張本人の場合も少なくありません。実はミーティングの満足度が高くなる要素はいくつかありますが、そのひとつに「発言時間」があります。単純に「ミーティングで自分がたくさん発言するほど、満足度は高くなる」と言われています。

本来なら、発言機会を与えることでメンバーの満足感を高めていくのが会議でのリーダーシップです。しかし、残念ながら会議中の会話を独占し、自分ばかりが発言してしまいリーダーシップを勘違いしている人もいるようです。また、こうした困った上司の中には発言することで存在感を誇示したいというタイプの方もいます。

ただ、少しだけ理解を示すと、一般的に人は誰でも話が長くなりやすく、発言時間を客観的にコントロールするのが難しいということです。

そのため、自分のまき散らす被害を分かっていない場合が多いことも頭に置き、進行役を変えるのも1つの対処法です。また、もしそれがやりにくい場合は、チームで申し合わせて「裏回し」の手腕を振るって対処していきましょう。

スマホでメールを送信するイメージ
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脱線話をうまく引き戻すには「クッション言葉+結論催促」

では、ここから具体的に困った上司の脱線話の引き戻し方をみていきましょう。脱線話を引き戻したい時、上司であっても気心の知れた相手なら「ちょっと時間が押しているので、巻きで(短めに)お願いします!」などと冗談っぽく言ってもいいでしょう。

一方、気を遣う相手の場合に役に立つのが、柔らかい印象で脱線した話を引き戻すフレーズ「クッション言葉+結論を催促」です。

クッション言葉とは、「恐れ入ります、……」など依頼やお断り、意見・反論をする時に、きつい印象にならないように先に挿入して使う緩衝材となるフレーズです。こうしたクッション言葉の後に、「ご発言中ですが、要約させていただくと……」

「お話の途中で恐れ入りますが、今の発言の意味は○○ということでよろしいでしょうか?」と発言の要点をまとめると、柔らかい印象で結論を促すことができます。こんなふうに上司の発言を要約しながらだと、相手に不快感を与えずに、論点のズレに気づかせつつ、うまく軌道修正できます。

他にも、「興味深いお話ですが、そろそろ本題もお伺いしたいです」「そのお話は、また別の機会にお伺いするということで……」というフレーズで本題に引き戻せば、相手を嫌な気にさせず、ちょっと話しすぎたかなと気づいてもらえます。

この時に心証を悪くしない話し方のコツは、おどおどせずに朗らかなトーンで、「本当は続きを聞きたいけど、時間の都合もあるので」というニュアンスを伝えることです。

場の仕切り直しに使いたいフレーズ

自由闊達な意見交換の場面では、当然話が迷走する人は出てきますし、意見が対立して空気が険悪になることもあります。そんな時に活用したいのが、場を仕切り直すフレーズです。

・話が迷走気味な時には

「いったんここまでの発言の要点をまとめていただけますでしょうか」
「結局のところ、○○について、どうなのでしょうか?」

と、ポイントを絞って訊ねて発言を整理してもらいましょう。「理解が追いつかなくて申し訳ございません。こんな私にも分かるように教えてくださいませんか」というスタンスであれば決して失礼には当たりません。

・空気が悪くなった時には

「このあたりで一度、これまでの話を整理して方向性を確認しませんか」

と仕切り直す提案をします。もし進行役がいる場合には、その方に進行をお願いしてご自身はホワイトボードでディスカッションを整理していく書記役に回ってもいいでしょう。

こうした場を仕切るフレーズをいくつか用意しておくと、いざというときに焦りませんし、何より「臨機応変に場を回せて頼もしい!」と思われます。

ディスカッションが停滞気味な時の上級テク

進行役が全てのファシリテーションをやると、どうしても一人で頑張っている印象になります。その点、裏回し役がいると、他の人も発言しやすい空気をつくりあげる効果があります。

やや上級テクニックになりますが、ディスカッションが停滞した時にはミスリードでも構わないので、例えば「誤解を恐れずに言うと○○も選択肢のひとつだと思うんです……」「極端だけどこんな意見もありますよね……」など、あえて呼び水となる発言を積極的にするといいでしょう。

最近は、フラットに意見を交わす社内イベントを実施する企業も増えたようで、社内でのパネルディスカッションのモデレータをする人から、「話好きな役員の発言を仕切るのが難しい」とファシリテーションのコツについて相談を受けることもあります。

ぜひ上手な仕切り役で、会議の無駄な時間を省くのはもちろん、さまざまなビジネスシーンで有意義なディスカッションを支援して「○○さんがいると会議が円滑に回る」と言われるような頼りがいある存在となり、活躍の機会を増やしてください。