元部下の女性の謝罪は“忖度”か
自分に関わりのある問題には、黙り込まずに態度を表明せねばならない。発言せねばならない。
この潮流の中で、いま男性のみならず女性もまた「変わらなきゃ」のフェーズにあると感じる。女性の社会的プレゼンスが高まるにつれて、女性はいつまでも被害者ではなくなってきた、平場での対等なプレーヤーとして男性と同じルールが課され、十分に当事者としての発言が要請されるようになってきた、ということである(実に当たり前のことなのだが)。
伊東発言の傍らで、その元部下として知られ、起業家・ライターであるトイアンナさんのツイートもまた、物議を醸した。彼女は伊東正明氏がP&Gジャパンマーケティング部に所属した時代の「部下の部下」にあたり、独立してキャリアや恋愛分野のライター・マーケターとして活躍、たくさんの著作もあるネット言論の有名人だ。プロフィールにこれまでのキャリアとしてP&GジャパンやLVMHジャパンの名前を明記することで差別化を図り、ウェブインタビューなどで尊敬する上司に伊東氏を挙げるなどしてきた(トイアンナ・インタビュー「オンラインビジネススクール立ち上げの勝算と、P&G時代に伊東正明さんから学んだこと」)。つまり、P&Gや伊東氏との関係性がネット上で可視化されていた人物だ。
トイアンナさんのツイートは、特に同じ女性の間で波紋を呼び、一部では批判を生んだ。
「傷ついた受講生の皆さん、大変申し訳ございません。今後こういった言動を起こさないよう、伊東さんへメッセージでキツイ諫言を送ります。また、しかるべき責任は本人が取るものと思います。しかし、それでも傷つきが消えるものではありません。元関係者として重ねて、深くお詫び申し上げます。」
「と同時に、こういった発言は私のような、これまで伊東さんに関わってきた人間が醸成した文化でもあります。P&G時代にそれを私が部下として提言しなかったことが、今の結果につながっています。」
批判の中には、「なぜその場にいたわけでもない、今一緒に仕事をしているわけでもない女性が、元上司のセクハラ発言を謝らなきゃならないのか?」という意見もあった。
だが私は、P&Gという出身母体と上司の知名度で賢くセルフブランディングをしてきた彼女が、その責任を引き取った、賢明で妥当なツイートだったと受け止めている。でも彼女への批判としては「女性部下の忖度」という意見もあって、非常に難しい。なぜなら、厳しいがその通りだからだ。でも、恩義ある男性上司のセクハラ発言に、男性部下ですら公開SNSなどという場でコメントしにくいというのに、女性部下がコメントするのはどう転んだって難しいわけで、この場面で誰にでも通用する正解なんかないだろう。