管理職はコスパが悪い

もう1つは管理職の働き方、働かせ方にも原因があると言う。

「働き方改革の中で長時間労働を抑制しようとする企業の中には、非管理職の一般社員を定時に帰し、管理職が残りの仕事を引き受けて遅くまで残業する風景も珍しくありませんでした。自分の専門性を発揮しながらプレイヤーとして自分の居場所を得ている女性からすれば、管理職になれば自分よりも部下の働き方に配慮しなければならないという上司像をずっと見てきています。しかも給与もそれほど上がらないし、管理職になるのはコスパが悪いと思ってしまうのは致し方ないことです。長く勤めようと思う女性ほど管理職手前のポジションにいたほうがよいという計算が働くのはある意味賢い選択です」

また、人事関係者の中には昇格時に「男性と並べたときに昇格に足る女性の質と量が足りていない」という悩みを口にする人も少なくない。

しかし武藤氏はこうした悩みは、企業の人事施策自体に大きな原因があると指摘する。

「課長に昇格するには10~20年程度の経験やキャリアの積み重ねが必要になりますが、実はその間に難しい顧客を担当させなかったり、会社の代表として仕事を担う責任を与えなかったりするなど、少しずつ女性に配慮してきたことに原因があります。採用時点では優秀だったのに何か小さくなって見劣りがすると発言する人もいますが、それは当然の帰結です。10年間かけて経験させないといけないことがわかっているのに、それをやってこなかったことで悩んでいる企業が多いのです」

配慮という名の排除

たとえ女性に対する善意の配慮であったとしても管理職に不可欠なスキルや経験を伸ばすことを逆に阻んでいるという。ライフ・ポートフォリオの前原はづき代表取締役はこれを「配慮という名の排除」と呼ぶ。

「子育て中の女性にママなんだから無理しなくてもいいよという態度が配慮だと思っていますが、実は本人のキャリア形成を阻害するだけではなく、長期的には組織を停滞させることにつながります。保守的風土が残る大企業の中には上司サイドが専業主婦世帯の場合が少なくないので、女性は世間の荒波に揉まれないように男が守ってあげなければという意識で生きてきた人もいます。そうした上司の意識と配慮してほしいと思う部下の女性との関係は良好になりますが、長期的には組織を停滞させる原因にもなります。一方、キャリア志向の強い女性はマミートラックに陥り、評価されないために不満や反発が生まれ、離職を引き起こす原因になりやすいのです」

女性の能力を最大限活用し、戦力化する発想が乏しいと本人のエンゲージメントの低下を招くだけではなく、企業の持続的成長の阻害要因になりかねない。