私企業としてウガンダのためにできること

ウガンダでもこの2年、コロナ禍で多くの人が失職している。社会保障があまり機能していない実情もあり、深刻な社会状況が続いているそうだ。仲本さんの工房でも、細々とではあるが日本の市場が動いていることで、なんとか給料を支払えている。

久々に帰国した東京で熱いウガンダ愛を語る仲本さん
撮影=中村一輝
久々に帰国した東京で熱いウガンダ愛を語る仲本さん

「大事な仲間を解雇なんてできないし、数年間かけて育ててきた技術者をここで手放すわけにはいかないんです。残念ながら、ウガンダでは失業保険などのセーフティネットがあまり機能してないのが現状。ほとんどの人が日銭商売をしているので、仕事がないとなると、いきなり生活ができなくなってしまいます」

ショップには自社工房の布製品だけでなく、さまざまなウガンダの工芸品が並ぶ。
撮影=中村一輝
ショップには自社工房の布製品だけでなく、さまざまなウガンダの工芸品が並ぶ。

コロナの影響で深刻化するウガンダの経済をどうにかしたい。仲本さんは現在、私企業ながら地元で働く人たちを下支えする仕組みづくりに取り組んでいる。それは職人を抱える工房の互助会のようなものだという。

「何とかしたいと思い、お付き合いのある工芸品の工房などに声をかけ、ものづくりののコミュニティー全体が成長できるようなエコシステムを考えています。例えばうちの会社には、年金制度、緊急無利子ローン制度、医療の補助みたいな制度がありますが、このパッケージをほかの工房にも開放して、関係事業者全体で従業員を支える方法を模索しているんです」

こうした福利厚生を提供する代わりに、参加する工房に研修を受けてもらい、より高品質な製品を納入してもらうような契約を結ぶというのだ。ウガンダの職人が安心して働けるような仕組みをつくることで、生活が安定し仕事に集中して取り組めるようになり、製品のクオリティーが全体として上がっていく。やがてウガンダの工芸品は観光の目玉になり、主要な輸出品として世界中で販売されるようになる。そして……と、仲本さんの野望はその先まで続く。

「実はアフリカは世界最古の布(バーククロス)やビーガンレザー(※)の原料になりうるサボテンといった植物など、ファッション業界が注目するようなマテリアルが豊富なんです。みんなが気づいていない資源がどっさり眠っています。名物はマウンテンゴリラだけじゃないぞ! と、日本の市場を軸にウガンダのビジネスの可能性を開いていきたいですね」

国籍や性別、年齢などにとらわれず、多様な相手とフラットに手を携えていく仲本さん。コロナ禍や紛争など、暗いニュースが続く困難な世相だが、仲本さんのようなしなやかなリーダーシップこそが、持続可能な社会へ移行しうる道標になるのではないだろうか。

※ バーククロスは木の皮を原料とするアフリカ原産の世界最古の布といわれている。また近年、動物由来ではなく植物由来で持続可能な原料からつくるビーガンレザーが注目を集めている。

構成=モトカワ マリコ

仲本 千津(なかもと・ちづ)
RICCI EVERYDAY代表

早稲田大学法学部卒業後、2009年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。大学院では平和構築やアフリカ紛争問題を研究し、TABLE FOR TWO Internationalや沖縄平和協力センターでインターンを務めた。大学院修了後は、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)入行。11年同行を退社し、笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)に転職。14年からウガンダ事務所駐在として農業支援にあたる。15年、ウガンダの首都カンパラでバッグ工房を起ち上げ、アフリカンプリントを使ったファッションブランドを日本で展開する会社RICCI EVERYDAYを母・仲本律枝と設立。16年にウガンダで現地法人レベッカアケロリミテッドを設立し、マネージングディレクターに就任。同年、第1回「日本AFRICA起業支援イニシアチブ」最優秀賞受賞、17年、日経BP社主催「日本イノベーター大賞2017」にて特別賞、第6回「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」女性起業事業奨励賞、第5回「グローバル大賞」国際アントレプレナー賞最優秀賞を受賞。