TOEIC345点から猛勉強!MBA取得に海外留学へ
それから4年後、笹原さんは思いがけないチャンスを得た。上司から「マサチューセッツ工科大学(MIT)への留学へ挑戦しないか」と勧められたのだ。自分でもスキルアップを目指し国内でのMBA取得を考えていたが、「まさか海外で!」と驚き、困惑した。しかし2週間ほど悩んだ末に、挑戦することを決意。実は英語が苦手だったという。
「入社した頃のTOEICの点数は345点(笑)。その後時間があったときに英会話スクールに通い勉強してかろうじて倍の690点。それでも留学のレベルでは全くなく、もう死ぬかと思うくらい勉強しました。夜中もCNNのニュースを聞きながら寝ていて、英語で夢を見るくらいで」
何とか踏ん張って留学試験に合格し、アメリカへ留学した。だが、言葉の壁ははるかに高く、勉強はもとより、文化や慣習など多様な学生たちとのコミュニケーションに苦労して落ち込むことばかり。それでもさまざまな国の女性たちと出会う中で、学ぶことは多かった。
韓国とマレーシアの女性は夫と子どもを連れて来ていて、ナイジェリアの女性はこの留学を期に離婚したシングルマザーだった。ブラジル人の友だちは留学中に離婚を決め、3人の子どもを一人で育てていると話してくれた。
「私は結婚でも別居するかどうかですごく悩んだけれど、世界にはもっと柔軟な生き方を選ぶ人たちがたくさんいる。女性だからというバイアスに縛られず、家庭の在り方や働き方にもいろんな可能性があるんだと。やりたいことは何でもできることに気づかされました」
マネジメントとは「牧場に柵を立てること」
一年間の留学でMBAを取得し、日本へ帰国。翌2014年にはイノベーション統括部の担当部長に就任した。新規事業創出を目的としたプログラム「39works」を運営し、社内起業家の支援を行うことになる。「39works」は、「未来の“あたりまえ”を創りたい」をモットーに始動したプログラムで、社内から上がってくる小さなアイデアとそのプロジェクトを社外パートナーと協力しながら、事業化に向けてサポートしていく。
これまで、1000件を超える企画の中から40件以上の事業化プロジェクトを推進。笹原さんは7年間にわたって、そのマネジメントを担ってきた。
「私はいわば“お母さん”的な役割でした。社員たちがそれぞれの価値観の中で出してきたアイデアを、現実的にどういうふうに立ち上げていくかをどんどん詰めていく。当然ながら一人ひとりの覚悟も聞きますし、私はかなり厳しい方だと思います。リスクが大きければ止めなければいけないし、予算にも限りがあるけれど、できるだけ挑戦してもらえる場を作るのが役目。よく『牧場』に例えていたのですが、私は崖のようなところに柵だけはしっかり作る。あとは広い牧草地で自由に駆けまわれるようなサポートを心がけてきました」