テニスロボットは完成できなかった
ロボットの研究はどんどん面白くなっていく。さらにAIとコンピューターサイエンスという新たな専門分野をもつマサチューセッツ工科大学へ入り、修士号と博士号を取得した。そこで人間のように動けて学べるヒューマノイドロボットを作ったが、AIの技術が及ばず、うまく動かない。改良するにはリアルな知能を勉強しなければと思い、神経科学も学んだが、テニスロボットは完成できなかった。
松岡さんは自身の研究を別の世界で活用したいと考え、身体に障害を持つ人々の生活をテクノロジーで支援することを思い立つ。学習機能を持つ支援・リハビリ用ロボットをテーマに掲げて、ハーバード大学へ進んだ。
「私はパッションで動いてしまう性格なので、これが面白いとか、世界で必要だと思ったら夢中になってのめり込んでいく。研究はとても楽しく、すごく燃えていましたね」
未熟児で生まれた双子の育児と50人の生徒の対応
そんな日々が大きく変わったのは30代半ば。カーネギー・メロン大学の教授になった松岡さんは、今の夫と出会って結婚。まもなく双子を授かって、ワーキングマザーの日々が始まる。当時はアメリカでも産休・育休制度が進んでおらず、産後すぐ職場復帰する人が多かったという。
「妊娠したときに『休暇とっていい?』と聞いたら、初めてのケースだから自由に考えてみようという感じでした。けれど大学の私の研究室には50人くらい学生がいて、いろんなことが起こるので何カ月も休むことはできなかったんです。それでも子どもはたくさん欲しかったし、私は母親業にも燃えるタチなので(笑)、もう大変どころじゃなくて」
双子は未熟児で生まれ、ちゃんと育つだろうかと不安もつのる。母乳で育てたいと思っていたので、2時間おきに授乳すると一人ずつ30分ほどかかる。二人に飲ませると夫に預けて、30分ほどの間に学生からのメールを確認したり、ミーティングを入れたり、それが終わればまた授乳と、そんな毎日が続いた。
翌年にはワシントン大学へ移り、続いて長男を出産。さらにシリコンバレーへ引っ越して、2009年には「GoogleX(グーグルの先端研究所)」の創立メンバーに加わる。その後、次男を出産した。