トランプ、麻雀……対人ゲームで前頭葉を刺激
中でも私は、認知症予防のため以下のことを推奨しています。
・聴力低下を改善する
・糖尿病の治療をする
・酒・タバコを控える:特にもの忘れを自覚したら、飲酒はできるだけ控える。
・有酸素運動を行う:特に計算しながら運動をするなど、運動と頭を一緒に使う「ながら運動」は、脳の広範囲を刺激できるのでおすすめ。
・対人ゲームを行う:囲碁やトランプ、麻雀などの対人ゲームには、相手の出方を想像し、対応を考えて、実行するという、前頭葉を中心に脳を広く刺激する効果がある。
・適切な睡眠をとる:睡眠には脳に蓄積されたアミロイドβたんぱくを洗い流す役割が。睡眠時間が短いとアミロイドβたんぱくが蓄積されやすいので、6時間半~7時間を目安に、質の良い睡眠を心がけること。睡眠時無呼吸症候群は必ず治療。無呼吸になると血液中の酸素が減り、脳神経にダメージを与えて、アミロイドβたんぱくの蓄積につながる。睡眠の質が悪くなることもリスクファクターとなる。
上の図はMCIと軽度認知症の人が、生活習慣を改善し、危険因子を取り除いたことで、認知機能検査がどのように推移したかを表すグラフです。非薬物的アプローチであっても、認知機能が改善されていることが如実に表れていることがわかるでしょう。
また脳と腸の相関関係も徐々にわかってきています。緊張をすると腹痛を起こす人がいることからも、脳と腸は自律神経でつながっていることがわかるでしょう。
認知症についてエビデンスのある論文や学会発表などを紹介する情報交換サイト「アルツフォーラム」では、MCIに作用するサプリメント食品のなかで有用菌(プロバイオティクス素材)として、森永乳業のビフィズス菌「MCC1274」が唯一紹介されていて、このビフィズス菌を摂取すると、アミロイドβたんぱくの産生抑制に作用することが、プレ臨床レベルで実証されています。
非薬物療法だけでなく、薬の発展にも目覚ましいものがあります。
2021年6月、米国のFDAで「アデュカヌマブ」という薬が承認されました。この薬は認知症発症前段階で使用することによって、アミロイドβたんぱくを減らし、進行を23%遅らせるというデータが出ていて、SCDやMCIの段階で使用すれば、発症を未然に防ぐことが期待できます。アデュカヌマブはEUでは否認、日本では継続審議となりましたが、それ以外にも開発の最終段階に入っている薬があり、臨床的な効果に期待が寄せられています。
エビデンスに基づいた認知機能低下の予防ソリューションは徐々に確立されつつあり、今は認知症予防の夜明け前の段階と言えるでしょう。まずは個人レベルで認知症にならないための生活を心がけることが大切です。
構成=林田順子
1978年順天堂大学医学部卒業、1984年順天堂大学大学院修了(医学博士)。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員を経て、1990年順天堂大学医学部講師。1997年順天堂大学医学部精神医学講座教授。現在は順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院メンタルクリニック科長、順天堂大学医学部附属順天堂医院認知症疾患医療センター長。著書に『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文春新書)がある。