ある社会学者の言葉

社会学者のピーター・L・バーガーは、1976年の著書『犠牲のピラミッド』で下記のように述べています。

「ほとんどの政治的決定は、不十分な知識を基礎にして作成されているに相違ない(無知の公理)。このことを認識すると、高い人的代償を強要するような政策の選択に対して、きわめて慎重にならざるを得ない」

今回の件にぴったりの言葉ではないでしょうか。不織布マスクの着用は感染症対策としては正しいけれど、2歳児を対象にするとなるとデメリットが大きい。政策は、メリットとデメリットを天秤にかけたうえで決定すべきです。政治家には、その決定でどんなデメリットが生まれるのか、何が犠牲になるのか、想像力を持って政策決定に臨んでほしいものです。

そもそも知事会のメンバーに多様性があれば、今回のような要望も出なかったでしょう。今後はそうした多様性のある社会をめざしていくべきですが、残念ながらこれはすぐに実現できるものではありません。現段階でできるのは、私たち自身がおかしいと思ったらすぐ異議申し立てをすることです。

同時に、専門家の方が冷静に、科学的な見地から異議を唱えてくれたら、その行動には非常に価値があります。今回は医学の分野でしたが、他の分野でまた同じようなことが起こったら、その道の専門家の方にはぜひ積極的に発言していただけたらと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。