経済の成長と安定には女性のエンパワーメントが重要

また、女性が活躍する機会を拡大することが重要です。今や、女性のエンパワーメントは世界が取り組むべき大きな課題となっています。女性が活躍する機会を広げることは、社会的公平性の観点や倫理的な配慮から大切だからというだけはありません。経済の成長と安定の観点からも女性のエンパワーメントは重要です。

IMFによる調査研究は、女性の労働参加を促進すると、これまでの想定以上に経済成長に大きく寄与することを明らかにしています。データは、女性と男性とが生産プロセスにおいて補完しあうことで経済的利益が生み出されることを示しています。この結果は、女性の労働参加は単に労働者数の増加を通じて経済成長を促進するだけにとどまらないことを意味しています。

効果を生み出す最大の理由は、男女で職場で発揮する能力やもたらす視点が異なるからです。例えば、リスクに対する姿勢は、男性が積極的なのに対して、女性は回避しようとする傾向にあります。また、女性の存在は、ピリピリした職場の雰囲気を和らげる効果があり、生産活動にプラスの効果をもたらすとされます。

男女ペアで仕事をすることが多くの付加価値を生み出す

生産活動における男女の補完関係には、同性2人で仕事をする場合よりも、男女ペアで仕事をした方がより多くの付加価値を生み出すことができる機能があります。つまり、男性の就業者が女性よりも多い状況では、男性の労働者を増やすよりも同数の女性労働者を増やす方が経済全体にとって大きなプラスの効果がえられるということです。

また、働く女性の増加は男性にもメリットがあることがわかっています。女性の補完的な能力によって生産性が高まれば、男性の賃金上昇にもつながるからです。IMFは女性の就労促進が所得格差の解消や経済の多様化につながると報告しています。

少子高齢化により生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む日本では、女性の労働参加を拡大することで、労働力減少の影響を緩和し、経済成長を押し上げることが重要です。

しかしながら、他の先進国と比較すると、日本では女性の労働参加が進んでいません。日本の生産年齢人口の就業率をみると、2020年では男性83.9%に対して、女性は70.7%と、その差は約13ポイントとなっています。これは、G7の就業率の男女差の平均(約9.5ポイント)を大きく上回っています。

さらに就業していても、派遣労働やパートなど非正規雇用という女性が多いのが現実です。総務省「労働力調査」によると、2020年の非正規雇用労働者のうち、約7割が女性です。また、ILOによると、日本の管理職に占める女性の割合は、2018年に12%で、世界平均の27.1%と比べてはるかに低くなっています。

EUは男女間の賃金格差の開示を企業に義務付け

男女間の賃金格差も大きな問題となっています。男性所得の中央値に対する男性と女性の所得中央値の差をみると、2020年に日本では22.5%となっており、これはOECD平均の12.5%を大きく上回り、韓国、イスラエルに次ぐ高さとなっています。

宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)
宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来 』(PHP新書)

なぜ、日本では男女間の賃金格差がこのように大きいのでしょうか。理由のひとつは、雇用形態です。非正規雇用の約7割は女性です。非正規雇用は正規雇用に比べてその賃金が低いため、非正規雇用の割合が多い女性の平均賃金は男性よりも低くなります。ただし、男女間の賃金格差のうち、正規・非正規という雇用形態の差で説明できるのは4割弱にすぎないと指摘されています。男女間の賃金格差の大半は正規雇用における男女間賃金格差によって説明されるのです。

企業において女性幹部や管理職のシェアを高めるためには、単に女性枠を設けるという発想ではなく、女性幹部が企業にメリットをもたらすという実績を示し、その考えを定着させることが大切です。

男女間の賃金格差解消にむけて、2021年3月、EUは企業に男女間の賃金格差の情報を開示するように義務付け、違反企業には罰金を科す賃金の透明性を強化する法案を発表しました。ESG投資が高まる中、こうした取り組みは男女間の賃金格差を解消するのに一定の効果があると考えられます。長期的に男女間の賃金格差を縮小するためには、労働市場の流動化が有益です。労働市場が流動的になれば、市場メカニズムにより、労働成果と賃金が一致するようになり、賃金格差は解消されます。

宮本 弘曉(みやもと・ひろあき)
東京都立大学経済経営学部教授

1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号取得(Ph.D. in Economics)。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学公共政策大学院特任准教授、国際通貨基金(IMF)エコノミストを経て現職。専門は労働経済学、マクロ経済学、日本経済論。日本経済、特に労働市場に関する意見はWall Street Journal、Bloomberg、日本経済新聞等の国内外のメディアでも紹介されている国際派エコノミスト。著書に『101のデータで読む日本の未来』(PHP研究所)などがある。