機械に代替されにくいのは中スキル職より低スキル職

理論的には技術革新が雇用に与える影響は、労働者が新技術にどれだけ適応できるかに依存します。

宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)
宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来 』(PHP新書)

この点において、マサチューセッツ工科大学のデイビット・オーター教授の研究は示唆に富んでいます。オーター教授は、アメリカにおける職をそれに必要となるスキルに応じて、低スキルの職、中スキルの職、高スキルの職の3つに分け、その変遷を分析しています。その結果、中スキルの職が全体に占める割合は低下し続けているのに対して、低スキルと高スキルの職は、その割合が上昇傾向にあることがわかりました。

この理由は、中スキルの職はルールや手順を明示化できる定型的なものが多く、機械に代替されやすいからです。一方、低スキル、高スキルの職務はそれぞれ肉体労働、頭脳労働を必要とし、明示化がしにくいため、新技術の影響を受けにくいとされます。

技術進歩によって仕事を失うリスクは、男女で異なることも明らかにされています。IMFの研究によると、自動化によって男性が仕事を失うリスクは平均9%であるのに対して、女性が仕事を失うリスクは平均11%となっています。これは男性よりも女性が、低スキルや中スキルのルーティン業務を伴う自動化されやすい仕事に従事している割合が高いからです。

男性と比較して女性が仕事を失うリスクが最も高い国は日本

また、IMFの研究では、仕事を自動化で失うリスクの男女差は、国ごとに異なり、中でも日本はその差が最も大きく、女性の仕事が男性の仕事よりも自動化のリスクにさらされやすいとしています。この背景には日本では企業活動の中心は依然として男性によってなされており、女性はその補助役という労働慣行が根強く残っていることが挙げられます。

最近、民間企業や自治体でロボティック・プロセス・オートメーション(RPA, Robotic Process Automation)が導入され始めています。RPAは、事務作業を担うホワイトカラーがパソコン等で行っている一連の作業を自動化できるソフトウエアロボットです。こうしたデジタル技術は、特に女性の仕事に強く影響を与えると考えられます。

宮本 弘曉(みやもと・ひろあき)
東京都立大学経済経営学部教授

1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号取得(Ph.D. in Economics)。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学公共政策大学院特任准教授、国際通貨基金(IMF)エコノミストを経て現職。専門は労働経済学、マクロ経済学、日本経済論。日本経済、特に労働市場に関する意見はWall Street Journal、Bloomberg、日本経済新聞等の国内外のメディアでも紹介されている国際派エコノミスト。著書に『101のデータで読む日本の未来』(PHP研究所)などがある。