お金持ちはファーストクラスには乗らない

混雑する電車に乗らないお金持ちは、当然飛行機でエコノミークラスには乗らない。では、ファーストクラスに? いや、お金持ちが好んで乗るのはビジネスクラスなのだ。なぜビジネスクラスがいいのか聞いてみると、一番多い回答が「もっともコストパフォーマンスが高いから」だった。

だが、一般的な感覚で言えば、ビジネスクラスは値段が高い。アメリカ西海岸に行くのに格安エコノミーであれば数万円なのに、ビジネスクラスになると30万から50万円。快適なのはわかるが、これでコスパが高いと言えるのだろうか?

加谷珪一『150人のお金持ちから聞いた 一生困らないお金の習慣』(CCCメディアハウス)
加谷珪一『150人のお金持ちから聞いた 一生困らないお金の習慣』(CCCメディアハウス)

旅館やホテルのオーナーをしているSさんは、海外の観光地やホテルの情報収集も兼ねて、毎月のように海外旅行をしている。旅行には毎年1500万円くらいかけている。Sさんはいつもビジネスクラスに乗っている。

「ファーストクラスに乗るのはお金をドブに捨てるようなもの」とSさんは言う。

ファーストクラスは、下手をするとビジネスクラスの倍以上の料金だが、シートが2倍広いわけでもなく、トイレのスペースも同じ。ラウンジが別といっても、値段を考えると、ビジネスクラスのほうが圧倒的にお得だという。なるほど、お金持ちはファーストクラスも含めてコスパを考えていたのか!

お金がないとそもそもファーストクラスは眼中に入らないので、これはお金持ちでないと思いつかない発想だ。そう考えると、何が一番お得なのかという話には、案外いろいろな盲点があるかもしれない。自分が得だと思っていることも、視点を変えて見直してみるとよいだろう。

ファーストクラスに乗る客は「乗ること自体に金を払う人」

ところで、Sさんが厳しい評価を下しているファーストクラスには、いったいどのような人が乗っているのだろうか。筆者はある実業家と一緒に香港に行く機会があり、その際ついにファーストクラスに乗ることができた。

乗客は少なく、我々以外には一組の香港人(?)カップルだけ。男性はおそらく芸能人か。背が高くイケメンだ。彼女もモデル体型で、2人とも「クール」を演じているようで、少し苦笑してしまった。

この手の乗客はファーストに多いという。ビジネスクラスだと仕事モードでパソコンに向かい、食べたらさっさと寝る客も多いので、基本的にまわりは静かだという。ファーストになると、にぎやかに過ごしたりするお客さんもいて、雰囲気がだいぶ違うのだそうだ。

つまりファーストクラスは、「ファーストクラスに乗ること自体にお金を出す人」がメインの乗客なのだ。こういう商売は実はあちこちに存在している。お金持ちになりたいと考える人にとっては、この話はビジネスのヒントになるかもしれない。

加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家

1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。