女性が生き生きと生命を全うする物語
——柚木さんは小説でシスターフッドの精神を書き続けていらっしゃいます。意識されているのでしょうか?
【柚木麻子さん(以下、柚木)】女性が主役の面白いエンターテインメント作品を書きたいという気持ちは、一貫して持っています。小さい頃から好きだった『赤毛のアン』も『若草物語』もそうですが、女性が主役で、面白くて、元気が出るものって、なぜかシスターフッドでフェミニズムになっているんです。女性が生き生きしていて、思うとおりに意見が言えて、悪い感情も良い感情も吐き出して、生命を全うする。だから私も、面白い小説を書いていきたいと思うと、必然的にそういうお話になってしまいます。
——柚木さんも恵泉の卒業生ですね。河井道の人生を小説にしたいという思いは、ずっと持っていたのですか?
【柚木】もともと母校の歴史に興味があったわけではありません。
『マジカルグランマ』の執筆を準備していた時、主人公が自宅をお化け屋敷にするというお話だったので、「公開するだけで価値がある自宅」をイメージして、一色ゆりの娘で、元恵泉女学園理事長の一色義子先生のお屋敷の図面をいただいたことがきっかけでした。
テレビドラマにも外観がよく使われるような、大きくてフォトジェニックな洋館なのですが、これが本当に変わった図面で。増築を繰り返していて、外国のお客様をもてなすための日本間があったり、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の接収を避けるために下宿にしていたこともあるため、2階部分に当時としては珍しい浴室があったり、普通のお屋敷というより学園の延長のような役割を果たしていた。「一色ゆり夫妻は、なぜそこまでして道先生を支えようとしたのか?」と疑問に思い、いろいろ史料を調べていくうちに、村岡花子さんや広岡浅子さん、吉田茂さんや有島武郎さんといった偉人たちとの交流が浮かび上がってきて、それが非常に面白いと思ったのです。