女性の地に足ついた地味さを書いていく
【柚木】女性の偉人の話がエンタメ化されない理由が分かったんですよ。薪割りして、家事をして、仕事して、薪割りして、家事をして、女友達と怪気炎を上げて、仕事して……と、とても普通なんです。平塚らいてうは「恋に生きた華やかな女」だと言われるけれど、恋をした相手は記録されているかぎりは片手で足りるくらい。それって普通じゃないですか。男性の偉人たちが、飲んですべてを失ったり、女に走ったりする展開に比べると絵にならない。
だけど、その地に足のついた地味な暮らしというのは、男の人たちがやってこなかったこと。人を傷つけることや、くだらないことには首を突っ込まず、粛々と自分のことをやってきた。それゆえに女性たちの人生が物語化されないのであれば、その地味さを書いていくしかないと思っています。
津田梅子を研究している方に、「津田梅子って、なぜ大河ドラマにならないのですか?」と聞いたら、「外国ロケが多いと、女性の話はドラマになりにくい」と言われました。まず、予算が組まれないらしいのです。梅子は少なくとも10年間アメリカに滞在していたので、人気の若手女優に生き生き演じさせたい少女時代の舞台が全部アメリカになってしまう。予算の問題のほかに、女の人が外国にいると「自分とは遠い人」「エリート」だと敬遠されてしまうという配慮もあるようです。
——『らんたん』を読んで、先人たちの姿が、モノクロからカラーに変わった気がしました。
【柚木】できるだけ大勢の偉人を登場させつつ、分かりやすく書きたかったので、『アベンジャーズ』のように、それぞれ一瞬だけ見せ場を用意して、すぐ退場させるという構成にしています。皆さん実在の人物なので、この小説を読んで興味を持っていただけたら、ぜひもっと深掘りしてもらえるとうれしいです。
できれば若い人に読んでもらって、これまで歴史の教科書で名前しか知らなかった女性たちのことを、心にとどめてもらえたらいいなと思います。あと、GHQに約20人の女性将校がいたということも、声を大にして言いたいですね。
私自身、執筆する中で、たくさん知らなかったことを知りました。面白く読んでもらえるように書いたので、この小説で元気になってもらえたら。一色義子先生に、この小説の執筆の許可をもらった時、「何を書いてもいいけど1つだけ条件がある。読んだ時に女性が元気になるものを書いてね」と言われたのです。その約束は守れたかなと思っています。
構成=新田理恵
1981年、東京都生れ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』『マジカルグランマ』などがある。