ちょうど30歳のときに創業

次の目標を決めたら、さすがにフットワークは軽い。坂梨さんは資金調達に動き、市場調査を重ねながらプロダクト開発に取り組んだ。2020年に「MEDERI」を創業(のちにmederiに)。医師など専門家による監修のもと、妊娠や出産に関わるサービスを展開するウーマンウェルネスブランド「Ubu(ウブ)」を立ち上げる。ちょうど30歳からのスタートだった。

サプリメントとともに、妊活に関する情報をまとめた知識ブックとコーチングカードが届く。
写真提供=mederi
サプリメントとともに、妊活に関する情報をまとめた知識ブックとコーチングカードが届く。

最初のプロダクトは、自身も妊活のために毎日服用していたサプリメント。妊娠を望んでいる女性に推奨されている葉酸とビタミンDに加え、良性の乳酸菌をサポートするラクトフェリンを配合したもので、現代女性に不足しがちな成分を補うものだ。

次に開発したのが、自宅で簡単に膣内の細菌バランスをチェックできるキットだ。女性の膣内には様々な細菌が存在し、バランスが乱れると感染症や妊娠に影響することがわかっている。そうした身体の状態をチェックすることがセルフケアにつながることから、知識ブックなどのコンテンツも力を入れた。

「より多くの女性に、自分の身体のことをきちんと知って欲しい。mederiのプロダクトを通して、日々の暮らしの中で自分と向き合う時間を少しでも届けられたらいいなと思っているんです」

この数年、「Femtech(フェムテック)」が日本でも注目されている。女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品(製品)やサービスのことだ。坂梨さんが立ち上げたフェムテック事業に、前澤ファンドからの出資も決まった。きっかけは昨年8月、ZOZO創業者の前澤友作氏が設立したファンド「10人の起業家に100億円」出資計画をTwitter投稿で知り、たまたま応募したところ、4000通以上の応募の中から13事業が選ばれた。坂梨さんは唯一の女性起業家と話題になった。

更年期障害の症状を抑えながら…次の挑戦へ

このチャンスを得て、坂梨さんが企画したのはオンラインピル診療サービスだった。低用量ピルには避妊だけでなく、生理痛や月経不順など生理トラブルを改善する効果もあることから、産婦人科医によるオンライン診療を受けて自宅にピルが届くサービスだ。来年1月にリリースされるという。

「働く女性たちは仕事もプライベートも忙しく、心と身体のバランスを保つことはなかなか大変です。産婦人科を受診するのもハードルが高いという声をよく聞きますが、オンライン診療ならば相談しやすいでしょう。ハードルを下げることで、不調があれば受診するという意識をもってもらうことも大切。一般的に妊娠能力は年齢を重ねるほど低下すると言われているので、後悔しない人生を送って欲しいですね」

事業をスタートしてから2年、ユーザーから「子どもができました」「無事に出産しました」という報告が届くようになった。坂梨さん自身はすでに更年期障害の症状があるため体調を整えながら、35歳までには何とか子どもを授かりたいと願っている。

「やはり自分の手で子育てしたいという夢があり、女性としてもその先に見えてくることがあるのかなと思う。だからあらゆる選択肢を考えています。事業では、私はもともと卵子が少ないから同世代より早く閉経が訪れると医師から言われているので、次は更年期の健康サポートを考えています。私は女性の人生に点ではなく、線で寄り添っていきたい。ようやく線がつながってきたような気がしますね」

すべての女性がより健やかに、幸せに暮らせる未来を実現する――坂梨さんは起業の理念をそう掲げる。10年刻みで立ててきた将来の計画の先に、今は確かなライフワークを見出したようだ。30代から40代、50代へと、私たち女性に、そして社会へと何を発信してくれるのか、その未来を期待したい。

文=歌代幸子

坂梨 亜里咲(さかなし・ありさ)
mederi 代表取締役

明治大学卒業後、ECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの4年に渡る不妊治療経験からmederiを設立。2021年より実業家・前澤友作氏が設立した前澤ファンドから出資を受けている。