なぜ手間ひまのかかる商品にハマるのか

私も「からっぽペン」を入手し、「世界に一つだけのペン」を作ってみました。綿芯に吸わせる「ink-café」ブランドのインクは全5色で、それぞれの色を「1対3対2」など、好みで混ぜることも可能。少しずつ調合して自分好みの色に近づいていく過程は、料理しながら調味料を足していくときのように、ドキドキワクワクするひとときです。

一方で、予想より簡単に仕上がるとはいえ、市販されているペンを買うよりは、当然ながら手間がかかります。私は元来そそっかしいので、周りにインクが飛び散らないよう準備する段階でひと苦労。

インク沼の女性はともかく、一般の人たちまでもが、なぜそうした「手間ひま」をかけてまで、「からっぽペン」にハマるのでしょうか。

手作りがもたらす「イケア効果」

2011年、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン氏らは、自分の手作りした対象物が、本来以上の価値を感じさせることを、組み立て家具販売の「IKEA(イケア)」になぞらえ、「IKEA effect(イケア効果)」と呼びました。

実験に参加した人たちは、他人が作った折り紙を「約5円」と見積もった一方で、自分が作った折り紙には「20円以上」の値付けをしたといいます。完成までに自身がかけた手間ひまを想起し、そこに付加価値や「愛着」を感じるからでしょう。

冒頭の「写ルンです」や、コロナ禍でヒットした無印良品の「発酵ぬかどこ」、CHOYAの「おうちで手作り梅しごとキット」なども同じです。いまやスマホで簡単に画像は撮れるし、ぬか漬けや梅酒も多彩な商品がインターネット上にあふれています。

でもだからこそ、人はあえてアナログな「手作り」や「手間ひま」にこだわる。そして、そこから紡ぎ出される画像や飲食、あるいは手書きの文字を「エモい」と感じ、価値に共感してくれる人たちに伝えたい、呟きたいと強く欲するのでしょう。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、インフィニティ代表

立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。