20代の若者でも払い込んだ保険料の倍以上が受け取れる

図表1に目を向けてみましょう。今26歳のサラリーマンであれば、生涯に自分が負担する保険料の金額は3400万円、それに対して平均余命まで生きた場合に受け取る年金給付額の合計は7900万円ですから、その割合は2.3倍になっていますね。自営業やフリーランスの場合は国民年金しかありませんからそれほどたくさんは受け取れませんが、それでも自分が負担した金額の1.5倍が受け取れるのです。

大江英樹『知らないと損する年金の真実 2022年「新年金制度」対応』(ワニブックス)
大江英樹『知らないと損する年金の真実 2022年「新年金制度」対応』(ワニブックス)

にもかかわらず、テレビなどではどうして若者が払い損みたいなグラフを作るのでしょうか? 一つ一つの番組を検証したわけではありませんし、そもそも根拠となる数字が示されていないケースも多いのでなぜそうなるのか、たしかなことはわかりませんが、想像するのは自分が負担する保険料だけではなく、国や会社が負担する保険料も含めているのではないかという気がします。

サラリーマンであれば厚生年金の保険料は労使折半です。つまりみなさんが毎月の給料から天引きされている厚生年金保険料(給与明細に載っていますね)と同じ金額を会社も負担しています。また、国民年金の場合は半分が国庫負担なので税金でまかなわれています。

そういう部分まで全部入れて計算すると、あるいは負担した保険料よりも少ない年金しか給付されないというケースも出てくるかもしれませんが、直接自分が負担していない保険料まで加えて比較をするというのはフェアではありません。中には「会社が負担すると言ってもそのお金は社員が稼いだものなのだから、当然本人が出したという具合に考えないといけない」というやや無理なこじつけ的な論拠を展開する人もいますが、それは違います。年金に限らず、健康保険も雇用保険も社会保険料を企業が負担するというのは、企業としての義務であり、会社が儲かっていないから出せないという性格のものではありません。ボーナスのように「今期は赤字だったから出さない」というわけにはいかないのです。

「誰が得か」と煽ると全員が不幸になる

本当は、年金を損得では考えるべきではないのですが、もし損得で言うのならやはり自分が負担した金額と自分が給付される金額で比較するのが妥当ではないでしょうか。

さらに言えば、図表1で示した負担額と年金給付額は、それらを今後の賃金上昇率を用いて65歳時点の価格に換算し、さらにそれを物価上昇率を用いて平成26年時点(この試算が作られた時)の現在価値に割り引いて計算されたものですから、ほぼ現時点での価値になっています。実際に受け取る時の名目額はもっと高いものになっていると思います。

年金制度は多くの人が参加して支える仕組みですから、「誰が得だ」とか「損だ」といって世代間対立を煽るようなことは誰にとっても不幸なことだと思います。実際に数字のデータを見て判断することが大切ではないでしょうか。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。